人材費削減や若手人材の待遇向上など、さまざまな理由により「早期退職優遇制度」を採用している企業も少なくありません。早期退職の場合、定年退職よりも上乗せされた退職金が受け取れるというメリットはありますが、安易な判断では思わぬ「老後破産危機」に陥る可能性も……。58歳Aさんの事例をもとに、早期退職の落とし穴と注意点についてみていきましょう。牧野FP事務所の牧野寿和CFPが解説します。
あれっ、あの人辞めたんじゃないの?…月収60万円・貯金3,500万円だった58歳元サラリーマン「喜んで早期退職」も、1年後に“半ベソで出戻り”のワケ【CFPが解説】
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直視しなければならない「59歳・無職」という現実
Aさんが利用した「早期退職優遇制度」とは、従業員が定年を迎える前に、退職を希望した社員に対し、退職金の割り増し給付や再就職支援など、通常の定年退職よりも手厚く優遇される制度です。
似たような制度として、業績悪化や事業縮小などによる人員整理を目的に、期間限定で退職者を募集する「希望退職制度」があります。こちらは会社都合での退職となりますが、早期退職優遇制度は従業員側が希望すれば利用できる福利厚生の一環とされており、自己都合退職となります。
厚生労働省「令和5年就労条件総合調査の概況」によると、勤続20年以上かつ45歳以上の退職者の平均退職給付額は、学歴・退職理由によってそれぞれ下記のようになっています。
■大学・大学院卒(管理・事務・技術職)
定年:1,896万円
会社都合:1,738万円
自己都合:1,441万円
早期優遇:2,226万円
■高校卒(管理・事務・技術職)
定年:1,682万円
会社都合:1,385万円
自己都合:1,280万円
早期優遇:2,432万円
■高校卒(現業職)
定年:1,183万円
会社都合:737万円
自己都合:921万円
早期優遇:2,146万円
これをみると、どの学歴であっても「早期優遇退職者制度」を利用した場合の退職金がもっとも高いということがわかります。
しかし、一見魅力的に思える「早期退職優遇制度」ですが、“落とし穴”も存在します。
たとえばAさんのように58歳で退職してしまうと、退職金は支給されても、その後7年間は老齢厚生年金を受給するまで収入がありません。さらに、年金受給額は退職当時の給与の約3分の1となります。
A家に迫る「老後破産」の危機
相談を受けた筆者は、A家の今後の家計収支を書き出してみることにしました。
<今後の主な収入>
■Bさんのパート収入
月8万円
■老齢厚生年金
Aさんが65歳~:月約20万円
Aさんが69歳~:Bさんの年金受給がスタートし、あわせて月約29万円
<今後の主な支出>
■住宅ローン
残債:約660万円(65歳まで返済)
■教育費※
・長男(大学3年生)……年間130万5,700円※
※1年分。自宅に住んでいるため生活費はここに含めず。
・次女(大学1年生)……年間133万8,100円
+下宿のため生活費の仕送りが年間106万5,700円
→3年間で合計721万1,400円
合計:1,511万7,100円
※ <参考>日本学生支援機構「令和4年度学生生活調査結果(1-1表)」
支出としては上記のほか、生活費や国民年金、国民健康保険料、固定資産税などの諸税が加わります。このままでは、年金受給が始まる前に家計が破産しかねません。
そこで筆者は、早急に職を探して収入を得ることと、支出を見直しムダな出費を減らすよう勧めました。
「やっぱりこのままじゃ生活できないですよね……今日もハローワークに寄ってから帰ります」
Aさんはこう言い、肩を落として事務所を後にしました。