転倒、骨折、失神…夜の「ワンオペ」で介護事故も続出

さらにストレスとなったのが、人手不足のため手が回らず、頻発する介護事故だった。転倒は日常茶飯事で、玄関の縁石でつまずいたり、風呂で転んだり、柵を付け忘れたベッドから転げ落ちたりといった事故が、2〜3日に1回は起きていた。

骨折しても救急車すら呼べない「お泊まりデイサービス」

特に1人で5〜6人を見る「お泊まりデイサービス」は危険だった。

歩行が困難な80代の女性が、トイレに行こうとナースコールを押すも、職員が来なかったため、歩行器を使って自力で行こうとして転倒し、大腿骨にひびが入る事故があった。ワンオペ中の同僚が、他の利用者の介助でトイレにおり、気付かなかったのだ。

その後も、同じ利用者が同じ状況で再度転倒し、今度は大腿骨を骨折した。しかし、怪我をしても、夜勤中はワンオペで付き添いができないため、救急車を呼ばないしきたりになっていた。

以前に1度事故を起こした同僚が、24時間勤務後に急にシフトが追加されてワンオペ夜勤となった結果、途中で寝てしまい、ナースコールに気付かず、やはりトイレに行こうとした高齢者が転倒したケースもあった。同僚は疲労困憊していたが、先輩からは「2回もやりやがって」と怒りをぶつけられていた。

脳梗塞や心筋梗塞を患い、脈拍や呼吸が安定していない利用者を入浴させていたとき、利用者の血圧が低下して意識を失い、その間に尿失禁・便失禁させてしまったこともあった。

通常の介護じたいも手が回らないため、利用者には1日中ずっとテレビを見させているだけ。「トイレはちょっと待って!」と利用者に怒鳴ってしまうこともあった。徘徊がひどい人が多く、認知症の人が勝手に外に出てしまったこともある。

退職後、団体交渉の末に解決金が支払われるも…

人手不足による長時間労働、多すぎる業務、過酷なシフト、介護事故の危険。先輩のいじめの背景には、こうした事情があったのだ。Iさんは、社長に先輩の発言や職場の実態を話したが、当然のように何の対応もされなかった。

Iさんは退職し、なんとか会社に責任を取らせたいと介護・保育ユニオンに相談した。当時、憔悴していたIさんは、「誰も信じられなくなった」と繰り返しつぶやいていた。

その後、ユニオンに加入したIさんは会社と団体交渉を行い、社長に一連のことを謝罪させ、最終的に解決金が支払われた。ただし、そのときには、先輩もすでに退職していた。

坂倉 昇平
ハラスメント対策専門家