高齢者は運転免許を自主返納すべきだという考えが世間に広まりつつあります。しかし、車を運転できなくなった結果、さまざまな弊害が生まれると、医師の和田秀樹氏は言います。今回は和田氏の著書『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)から、運転免許の自主返納の必要性についてご紹介します。
「高齢者は運転免許証を自主返納すべき」という風潮が広がっているが…その先に待っている〈思わぬ落とし穴〉【医師・和田秀樹の助言】
「運転免許は自主返納すべき」という同調圧力
高齢者は運転免許証を自主返納すべきという風潮が、ますます広がりつつあります。自分は返納したと得々と語る人も増えてきました。いいことをしているという自信の表れなのかもしれませんが、それが他の人に無言のプレッシャーを与えているということに気づいているのでしょうか。
日本では、あくまでも自主返納を求めるというやり方を採っています。コロナ自粛もそうでしたが、海外のいくつかの国と異なり、国が責任を持ってロックダウンすることはせず、なんとなく従わないといけないような空気を作り上げます。
そして、それに従わないと居心地が悪くなるように仕向けて、その居心地の悪さに耐えかねた人たちが自粛したり、運転免許を返納したりと、あたかも自主的に判断したように持っていきます。
こうして同調圧力に負けてしまった人たちは、どうなるのでしょうか。
コロナ禍で自粛していた人たちは、自分たちの行動が正解であると思い込もうとして、他人にも自粛を強く求めるようになりました。けれども、その裏でうつ状態になってしまった人も多く生まれました。
車がない→外に出ない→要介護率が上がるという負の面も
免許を自主返納した人たちは、あたかもそれが正義であるかのように語ります。けれども、車がないことで生活の幅が狭くなった人たちは、外に出ない高齢者になってしまって、数年後の要介護率が大幅に上がったりすくるわけです。
結局は自分たちが損するわけですが、あくまでも自主的に行動を起こしたことになっているので、どこにも怒りの矛先を向けられない、誰にも不満をぶつけられないような空気が蔓延しているのです。
こうしたパターンが続く限り、高齢者のうっぷんが収まることはないでしょう。
和田 秀樹
国際医療福祉大学 教授
ヒデキ・ワダ・インスティテュート 代表
一橋大学国際公共政策大学院 特任教授
川崎幸病院精神科 顧問