「運転免許は自主返納すべき」という同調圧力

高齢者は運転免許証を自主返納すべきという風潮が、ますます広がりつつあります。自分は返納したと得々と語る人も増えてきました。いいことをしているという自信の表れなのかもしれませんが、それが他の人に無言のプレッシャーを与えているということに気づいているのでしょうか。

日本では、あくまでも自主返納を求めるというやり方を採っています。コロナ自粛もそうでしたが、海外のいくつかの国と異なり、国が責任を持ってロックダウンすることはせず、なんとなく従わないといけないような空気を作り上げます。

そして、それに従わないと居心地が悪くなるように仕向けて、その居心地の悪さに耐えかねた人たちが自粛したり、運転免許を返納したりと、あたかも自主的に判断したように持っていきます。

こうして同調圧力に負けてしまった人たちは、どうなるのでしょうか。

コロナ禍で自粛していた人たちは、自分たちの行動が正解であると思い込もうとして、他人にも自粛を強く求めるようになりました。けれども、その裏でうつ状態になってしまった人も多く生まれました。

車がない→外に出ない→要介護率が上がるという負の面も

免許を自主返納した人たちは、あたかもそれが正義であるかのように語ります。けれども、車がないことで生活の幅が狭くなった人たちは、外に出ない高齢者になってしまって、数年後の要介護率が大幅に上がったりすくるわけです。

結局は自分たちが損するわけですが、あくまでも自主的に行動を起こしたことになっているので、どこにも怒りの矛先を向けられない、誰にも不満をぶつけられないような空気が蔓延しているのです。

こうしたパターンが続く限り、高齢者のうっぷんが収まることはないでしょう。

和田 秀樹

国際医療福祉大学 教授
ヒデキ・ワダ・インスティテュート 代表
一橋大学国際公共政策大学院 特任教授
川崎幸病院精神科 顧問