心身の衰えや介護の必要性、家族を失った寂しさなど、老人ホームに入居する理由はさまざまです。しかし、安易に施設を選んでしまうと、老人ホームでの「予期せぬトラブル」に見舞われるかもしれません。過去に介護施設での勤務経験があり、現在は株式会社FAMORE代表取締役である武田拓也FPが、具体的な事例をもとに「入居トラブルの予防策」を紹介します。
年金月20万円・貯金1,500万円の78歳父〈老人ホーム〉で“新しい友だちとの老後”を楽しんでいたが…49歳息子、たまたま目にした〈まさかの光景〉に悲鳴「やめてくれよ!」【元介護施設勤務のFPが解説】
施設内でのトラブルを避けるため…入居前に必ずやっておきたいこと
たとえ設備が整って雰囲気の良い施設であっても、入居者の性格はさまざまです。では、こうしたトラブルを避けるためには、どのような対策が考えられるのでしょうか。
1.施設見学時、「施設ルール」と「監視カメラ」を確認する
施設見学時、家事の負担をなくしたいとそればかりに気を取られていたAさん。しかし、老人ホームは自宅での生活と異なり「共同生活」となるため、その施設が「トラブルが起きにくい環境になっているかどうか」を確かめることも重要になってきます。
トラブルは、閉鎖的な場所で起こりやすいため、決められた見学時間が極端に短かったり、外出時や携帯電話の使用などに厳しいルールが設けられたりしている場合は要注意といえるでしょう。
また、トラブルが心配であれば「監視カメラ」が設置されているかどうかも確認しましょう。監視カメラがあることで、さまざまなトラブルの抑止力になり得ます。
2.「体験入居」はマスト
老人ホームへの入居を検討する際には、施設見学だけではなく「体験入居」を行うようにしましょう。体験入居は、見学だけではわからない夜間や早朝の施設の様子を把握できるほか、スタッフや入居者と直接コミュニケーションをとることができます。
体験入居で「どのような入居者がいるのか」をあらかじめスタッフや入居者からヒアリングすることで、他の入居者とのトラブルを回避できる可能性が高まります。
具体的には、入居者の年齢層や介護度、認知症患者の有無、可能であれば資産状況などを聞いておくとよいでしょう。
特に、検討している施設が認知症の高齢者を受け入れているか確認しておくことは重要です。後日息子さんが施設のスタッフに事情を確認したところ、Bさんには軽度の認知症があり、こだわりが強い傾向にありました。こうした点もあらかじめ知っておけば、コミュニケーションの方法や距離の取り方について工夫することもできたかもしれません。
後日談
Aさんはその後、Bさんと不要なトラブルを避けるために、できるだけ顔を合わせないようにしました。
しかし、しばらくすると、廊下ですれ違うことすらなくなってしまいました。不思議に思ったAさんは、スタッフに「Bさんはどうしたんですか?」と聞いてみたところ、「認知症が進行して、介護が必要になったので介護棟へ移られたんです」とのこと。
一時は他の施設への転居を考えていたAさんでしたが、こうした経緯からいまも同じホームで生活しているそうです。
老人ホームには、さまざまなバックグラウンドを持った入居者がいます。もしも認知症を受け入れていない施設に入っていればAさんも不快な思いをせずに済んだかもしれませんが、その場合、認知症になった際に施設を退去する必要があるケースも少なくありません。
認知症になってからでは、次の施設を探すのは大変です。したがって、老人ホームの入居を検討する際には、人間関係の把握のほか、「認知症になった場合はどうするか」「自身がどのような最期を迎えたいか」「介護が必要になっても住み続けられるのか」など、「こんなはずではなかった」とならないよう、先を見据えて慎重に計画をたてることをおすすめします。
武田 拓也
株式会社FAMORE
代表取締役