心身の衰えや介護の必要性、家族を失った寂しさなど、老人ホームに入居する理由はさまざまです。しかし、安易に施設を選んでしまうと、老人ホームでの「予期せぬトラブル」に見舞われるかもしれません。過去に介護施設での勤務経験があり、現在は株式会社FAMORE代表取締役である武田拓也FPが、具体的な事例をもとに「入居トラブルの予防策」を紹介します。
年金月20万円・貯金1,500万円の78歳父〈老人ホーム〉で“新しい友だちとの老後”を楽しんでいたが…49歳息子、たまたま目にした〈まさかの光景〉に悲鳴「やめてくれよ!」【元介護施設勤務のFPが解説】
施設の“新しい友だち”と楽しい日々を過ごしていたが…
入居後のAさんは、思い描いていたとおりの快適な暮らしを満喫していました。入居後すぐに様子を見に来た息子たちにも「ここの暮らしはいいぞ。お前たちもしっかり働いて、将来は入居したらどうだ」と自慢げです。
ストレスだった部屋の掃除や洗濯、食事の用意も自分でする必要はなく、すべて施設のスタッフが行ってくれます。自宅で孤独に過ごしていたころより自由な時間が増えたAさんは、話し相手を探しに共有スペースにある談話室を訪れ、雑談を楽しむようになりました。
ある日、いつものように談話室を覗くと、男女4人が楽しそうに話しています。そのなかに、見かけたことのない男性も混じっていました。その男性は見た目の年齢も同じくらいのように見え、知的な雰囲気を醸しています。“新しい友人”ができると思ったAさんは、思わず声をかけました。
「どうも、はじめまして。先月から入居しているAといいますが、おたくは?」
「やあ、どうもどうも。Bと申します。私はね、この施設ができた頃からずっと住んでおりまして。ここでの暮らしには慣れましたかな?」
「いやあ、大先輩でしたか! これは失礼しました(笑)」
入居歴が長いことを知り、下手に出たAさんは、なるべく謙虚に努めて会話を続けました。しかし、かつて有名企業で働いていた自尊心が、無意識に会話ににじんでしまいます。
「失礼ですが、ご年齢は? お仕事はなにをされていたのかね?」と聞かれたAさんは、「もう結構な年でね。78歳になったんですが、現役時代はあの〇〇で有名なX社で部長をしておりましたよ」と自慢げに答えます。
これまで施設で出会った人たちのように、「すごいですね」と褒められ、話が弾むと思ったAさんでしたが、Bさんは予想に反して次のように答えました。
「なんだ、年下か。しかも部長止まりの。私はY社の役員でしたよ。今年で80歳です」
Bさんの見下すような態度に不快感を覚えたAさんは、早々に話を切り上げて談話室を離れます。しかし、その日の昼食時、中庭がよく見える窓際の席にAさんが座っていると、Bさんが近づいてきました。
「あんた、そこは私の席だよ。どいてくれ」
先ほどのBさんに対して面白くない気持ちが残っていたAさんが「そんなことは知らん」とぶっきらぼうに答えると、Bさんは持っていた椅子で杖を叩き、こう言い放ちました。「ワシに口答えするとはなにごとだ! どかんか!」
ささいな意地の張り合いの結果、掴み合いの大喧嘩に。騒ぎを聞きつけて他の入居者やスタッフが集まってきました。そのなかには、ちょうど面会のために施設を訪れていた息子の姿も。
「ちょっと! 父さん! なにしてんだやめてくれよ!」息子は急いで間に入り、興奮する父親を連れてその場を離れました。