取引先がいなくなると…Aさんを襲った「理不尽すぎる」悲劇

取引先が駅構内に姿を消すと、束の間、平静を装っていた先輩は豹変した。歩行者や車が行き交う駅のロータリーで、Aさんは顔を握りこぶしで10発ほど連続して殴られ、続けざまに平手打ちされた。鼻と口から血がダラダラと流れ落ち、Aさんはコンクリートの路上に倒れ込んだ。

さすがに白昼の人通りの多い駅前だったため、驚いた通りがかりの中年男性が、「大丈夫ですか? 何があったんですか?」と声をかけて、止めに入ろうとしてくれた。しかし、Aさんは恐怖のあまり放心状態だった。自分が暴力を受けている理由も状況も理解できず、助けを求める声すら出すことができなかった。

すかさず先輩が、「関係ないんで、大丈夫です」と、中身のない返事をしてその場を取り繕い、男性を追い払った。

そのあとは、人気のない路地裏に無理やり連れて行かれ、暴行が続行された。「殺すぞ」「バカ」「クソ」と言われながら、Aさんは回し蹴りを受けた。Aさんの顔と体は赤く腫れ上がり、痛みは数日引かなかった。

しかも、恐ろしいことに、こうした流血事件は、見知らぬ人たちの目の前で血だらけになったということを除けば、この会社では決して珍しいことではなかった。先輩社員による後輩への暴力が、当然のように横行していたのだ。

Aさんの同期ら若手社員は、少しでもミスやうたた寝をしようものなら、この男性先輩社員から、すぐに拳で殴られた。徹夜作業をした翌朝に車で移動中、後部座席で居眠りをしていた若手社員が、顔面を靴で蹴り飛ばされたこともあった。

若手の男性社員たちは、全員が彼から殴られたり、蹴られたり、首を絞められたりしたことがあった。女性社員ですら、容赦なく胸ぐらを摑まれていた。

会議中でも、気に障る発言があったら、ボールペンのペン先を向けて、勢いよく投げつけられた。「お前、口ごたえすんのか?」と平手打ちを繰り返し、胸ぐらを摑んで大声で「説教」されることもあった。

ただでさえ暴力の理由は理不尽だったが、別の若手のミスをあげつらった後、「お前は自分が関係ないと思ってんのか」と殴打し回し蹴りを食らわせることもあった。先輩の勘違いやミスの責任をなすりつけられて、暴力を振るわれることもあった。

暴力の加害者は、この先輩だけではない。別の先輩リーダーも、仕事が間に合っていなかった若手の頭を何発も殴ったあと、分厚いファイルの角で頭を殴り、出血させた。被害者はやむをえず、しばらく血で汚れたシャツで仕事をしていたという。この会社では、先輩から後輩に対する暴力が「日常化」していたのだ。