もともと悪い意味で使われていた言葉も、徐々にポジティブな意味として捉えられるようになるケースは少なくありません。しかし、本来の意味から遠ざかった言葉の使い方が浸透していたとしても、それは一概に間違いとはいえないようです。ふかわりょう氏と気鋭の言語学者・川添愛氏が、著書『日本語界隈』(ポプラ社)より対談形式で「日本語の妙味」について語ります。
「うがつ」に「色眼鏡」、「こだわり」…多くの人が“誤解”している日本語のほんとうの意味【ふかわりょうと言語学者の対談】
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「こだわり」はもともとネガティブな意味で使われていた
ふかわ:テレビを見ていて、いちいち誤用をあげつらって悦に入る気はないんですけど。ただ「うがった見方」の使い方がどうしても気になって。
というのも、僕は「雨だれ岩をうがつ」ということわざが好き過ぎて、『好きなことわざTOP40』に常にランクインしています。「うがった」というのは本来、まっすぐなものなんですよ。なのに「曲がった」と音が似ているからか、斜に見るような、クセのある感じに使われていて。
そうすると、「雨だれ岩をうがつ」が矛盾してきちゃうんです。それを防ぐため、僕はことあるごとにこうして矯正しているんですけど、「うがった見方」は誤用の勢力のほうが強いです。あと「色眼鏡」なども。
川添:なるほど、たしかに、いつのまにか言葉に変なクセがついてしまうケースは多いですよね。でもその一方で、もともと悪い言葉がいい言葉になった例もあるにはあります。「こだわり」とか。
ふかわ:え! こだわりって悪い意味だったんですか?
川添:もともとは、必要以上に気にするとか、執着するとか、ネガティブな言葉だったんですけど、今は同じ執着でも「ポジティブな執着」になっていますよね。「このお店のこだわりは何ですか?」とか、普通に言いますし。
あと、「ヤバい」も、悪いほうから良いほうになった例ですね。
ふかわ:犯罪系の用語でしたっけ?
川添:矢場という、射的場から来ているという説があります。矢が飛んでくるから危ない、ということですね。
ふかわ:「矢場い」なんですね。「エモい」と一緒でしょうか。
川添:名詞に「い」がついて形容詞になるグループですね。
ふかわ:危険な意味の「ヤバい」から、今はいい意味でも使いますよね。
川添:褒め言葉にも使われるし、「最高」という意味合いも出てきましたよね。
ふかわ:それってどういう経緯を経て、変わっていくんでしょう?
川添:たぶんですけど、誰かが自虐とか皮肉のつもりで「いい意味」で使ったら意外としっくりきて、浸透していったんじゃないかと思うんです。「こだわり」も、誰かが「異常なほど追求したんですよ」という意味合いで、ちょっと自虐的な感じで「良さ」をアピールしたら、それが成功して、多くの人に使われ始めたのかも。