相手を無意識に誘導するようなフレーズは、日常のなかにあふれています。日本語における特徴的な「匂わせ」表現についてみていきましょう。ふかわりょう氏と気鋭の言語学者・川添愛氏が、著書『日本語界隈』(ポプラ社)より対談形式で「日本語の妙味」について語ります。
店員さんの「~しておきましょうか」は無料?有料?…日常に潜む“ズルい”日本語表現【ふかわりょう×言語学者が対談】
2025年2月8日(土)開催!1日限りのリアルイベント
「THE GOLD ONLINE フェス 2025 @東京国際フォーラム」 来場登録受付中>>
「〜しておきましょうか」はどっち?
川添:ふかわさんの本に出てきた、「『~しておきましょうか』には無償化のニュアンスが含まれているのではないか」という指摘も「鋭い!」と思いました。
ふかわ:そうなんですよ! ガソリンスタンドで店員さんに「添加剤入れておきましょうか」と言われて。てっきりサービスかと思ったら、がっつり有料だったことがあって。これはズルくないですか?
川添:ズルいですねー。「しておく」というのが、いかにも「ついで感」があるじゃないですか。メインがあって、それにサブのように足すという。
ふかわ:サービスの匂いは、その「ついで感」から漂うものなんですかね? 僕の感覚は言語学的には間違えていないということですか。
川添:私もそう言われたら、サービスだと思ってしまいます。ふかわ:店員さんにしてみたら、上司に添加剤も売るように言われていて、でもなかなか売れないから、苦肉の策で生まれた言い回しなのかもしれません。
同じ例として、近所に来ていた庭師さんに「おたくの枝も道路に出ているから切っておきましょうか」って言われてお願いしたら、やはりお金を取られたという。これも「ついでにやりますよ」というサービス感が出ていますよね。
川添:これは気をつけないといけませんね。「〜しておきましょうか」は警戒ワードと思っておいていいかもしれません。
ふかわ:もし訴訟になったら、どっちが勝つんでしょうか。
川添:法律のことはよくわかりませんけど、残念ながら「相手が噓をついた」と主張するのは難しいと思います。「紛らわしい言い方をして、不誠実だ」と主張することはできるとは思うんですけど。
というのも、「~しておきましょうか」と言ったからといって、「無料です」とか「サービスです」と言ったことにはならないんですよね。その証拠に、「~しておきましょうか? ちなみに有料ですけど」と言っても、矛盾にはならない。
「あたかもサービスであるかのように匂わせる」ということと、「発した言葉そのものに『サービスだ』という意味が含まれる」ということは、似ているようで違うんです。前者のような「匂わせ」は後からいくらでも誤魔化せるので、要注意です。