日本語は、欧米の言語に比べ、結論を先延ばしにして断定を避ける傾向にあります。英語がストレートな表現であることから、「責任の所在を曖昧にしている」とネガティブに捉えられてしまうことも少なくありませんが、言語学者の川添氏はこの曖昧さこそが日本語の「品を保っている」といいます。芸人のふかわりょう氏と気鋭の言語学者・川添愛氏が、著書『日本語界隈』(ポプラ社)より、「日本語の妙味」についてみていきましょう。
日本人は「曖昧」がお好き?
ふかわ:ぜひ、日本人の曖昧好きについても話しておきたいんです。断定を避ける曖昧な表現も、否定か肯定かも最後まで聞かないとわからない文法も、日本人はそういうスタイルを選んで、今日に至るわけですよね。
川添:そうですね。ただ、世界の言語でいうと、日本語と同じく、最後まで聞かないと結論がわからないSOV型、つまり「主語―目的語―述語」型の言語の割合は約40パーセントだそうです※。意外に多いんですよ。
※ Matthew S. Dryer. 2013. Order of Subject, Object and Verb.In: Dryer, Matthew S. & Haspelmath, Martin (eds.)
WALS Online (v2020.3) [Data set]. Zenodo.https://doi.org/10.5281/zenodo.7385533
(Available online at http://wals.info/chapter/81, Accessed on 2024-02-11.)
ふかわ:え! それは初めて聞きました。
川添:ちなみに英語、中国語、フランス語のようなSVO型、つまり「主語─述語─目的語」という語順を持つ言語は35パーセントほど。韓国語、トルコ語も日本語型。韓国人とトルコ人と日本人が性格的に似ているかというと、ちょっと違う気がしますよね。
ふかわ:それは、意外です。
川添:なので、語順と文化が直接結びつけられるわけではないんですが、もともとあった語順をベースにして、それぞれの土地で風土に合った話し方が固まってくるということはあると思います。
ふかわ:日本人は結論を先延ばしにし、さらに曖昧に、ぼやかすところがあるでしょう。私はそこが日本人の素敵なところだと思っているんですよ。なるべく、断定を避けるところ。
川添:そうですね。何かにつけて、「できるだけやんわり言おう」という力が働きますよね。
断るときも笑顔を添える日本人
ふかわ:たとえば「これ、いかがですか?」と聞かれて、「いえ、大丈夫です」と断るときも笑顔を添えるでしょう。断るのは悪いからせめて愛想笑いでコーティングして提供する文化があるじゃないですか。
でも、これは欧米の人からすると「その笑顔はなんだ」という話なんですよね。断っておいて、笑っているのは意味がわからないという感想を聞いたことがあるんです。
川添:意味のわからない笑みを向けられる側としては、ちょっと気味が悪いかもしれませんね。あと、日本語の「大丈夫です」という言い方も、だいぶ曖昧ですよね。
ふかわ:そうなんですよ。