「家族だけで静かに送りたい」「費用を抑えたい」。そんな思いから選択されることが増えている家族葬ですが、故人の人脈や社会的立場によっては、むしろ遺族の負担が増えるケースもあります。今回は化学メーカーの元役員だった父(89歳)を家族葬で見送った真坂秀一さん(仮名・59歳)が後々大きな後悔を抱えることになった事例と共に、家族葬を選択する前に必ず確認すべきポイントをFPの三原由紀氏が解説します。
「家族葬」ではなく普通の葬儀にしておけば…89歳元会社役員、尊敬する父を見送った59歳息子の「取り返しのつかない後悔」【FPの助言】
尊敬する父の葬儀「最近は家族葬が一般的」の言葉で決断
「父は亡くなる前日まで元気で、日課の散歩も欠かさずにしていたようです」
真坂秀一さんは当時を振り返ります。秀一さんが尊敬する父は、40年間勤めた化学メーカーで役員まで出世し、地域の住民からも頼られる人望厚い人柄でした。
几帳面な性格で家事にも積極的に参加する父は、ある日、翌朝の朝食のテーブルセットのルーティンを終えた20時頃、胸の痛みを訴えました。すぐに救急搬送されるも、心不全で帰らぬ人となりました。
母からの一報で秀一さんは急ぎ病院に駆けつけましたが、間に合わず……。悲しむ間もなく、数時間後に病室をあけるように暗に促されました。祖父の代からお世話になっている地元の葬儀社に電話をすると、まもなく搬送車で駆けつけてくれました。そして、そのまま葬儀社の安置室に向かい、葬儀の打ち合わせが終わったのは夜中の12時過ぎでした。
母は日常生活は送れるものの軽度の認知症を患っており、葬儀の相談をすることは難しい状況でした。「家族で最後のお別れをどうするか話し合いたかったのですが、母は日によって話が通じないこともあり、判断を任されているような重圧も感じていました」秀一さんは当時の心境を語ります。
生前、父とも葬儀の形式について具体的な話し合いをしていなかった秀一さんは、近年の傾向も考慮して家族葬を選択しました。親戚も少なく、また高齢の参列者への配慮やコロナ禍の影響も判断材料となりました。葬儀社の担当者からも「最近は家族葬が一般的です」と背中を押してもらい、その方向で準備を進めることにしたといいます。
確かに葬儀自体は、厳かに、そして無事に執り行うことができました。しかし、それは新たな問題の始まりでもあったのです。