2024年10月7日の生理学・医学賞を手始めに、今年もノーベル賞が発表されました。今年は、特にAI関連の受賞が目立っています。これらの結果に、研究業界の人々は衝撃を受けました。ノーベル賞を創設したアルフレッド・ノーベルの存命時(1833年〜1896年)には、コンピューター化学という学問自体が存在しなかったため、ノーベル賞に「コンピューター化学賞」や「情報科学賞」といった類いの賞は現状ありません。受賞対象分野にすらなっていないコンピューター化学の手法におけるAIの機械学習が、ノーベル物理学賞と化学賞を獲ったのは異例のことなのです。今回の授与が示唆するものとは? 今年のAI関連の受賞内容を振り返ってみましょう。
変わる歴史…AIとGoogleが主役に2024年の「ノーベル賞」 (※写真はイメージです/PIXTA)

化学賞は「コンピューターによるタンパク質のデザインと構造予測」へ

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

化学賞では、アメリカ、ワシントン大学のデイビッド・ベイカー教授と、Googleのグループ会社である「DeepMind」社のデミス・ハサビスCEO、研究チームのジョン・ジャンパーの3氏に贈られました。ベイカー教授は、AIにより新たなタンパク質を設計することに成功。ハサビス氏とジャンパー氏は、アルファフォールドというAIモデルを開発し、これまで研究者たちが特定してきた2億個にのぼるタンパク質の構造を予測することに成功したのです。タンパク質がなければ生命は存在できず、タンパク質の構造を予測・独自の設計ができるようになったことは、人類の最大の利益であると評価されています。

 

Google、ノーベル賞を席巻…先端科学研究における産業界の役割が増大

アルファフォールドによりタンパク質の構造が予測・設計できるようになり、たとえば創薬の場面でも、実験をして調べなくても素早くコストをかけずに研究が行えるようになりました。すでにAI研究者たちだけのものではなくなり、生物を研究している人が実際に使用している段階になっています。

 

ハサビス氏は2010年にDeepMind社を立ち上げ、2014年にGoogleの親会社、アルファベットの傘下に入りました。2015年には囲碁コンピューターソフト、アルファゴーを発表し、世界トップクラスの棋士に勝利したことを記憶されている人も多いかもしれません。技術の飛躍発展には、学術界と産業界が協力していくことがますます必要になりそうです。

 

日本企業では、いまだ外との交流をよしとせず自前で創り上げようとする気風が残っており、アメリカのようにアカデミアと企業が一体的に研究を進める雰囲気とはまだ違い、課題が感じられています。AIにおける競争においても、官民上げて協力・協創関係を築くことが、今後日本が勝っていくために必要になりそうです。