平穏な年金生活を送っていた田中さん夫婦(仮名)。待望の孫の誕生に加え、息子家族が近くに引っ越してくることになり、ますます幸せな老後を送れるはずでした。しかし、孫への愛情が暴走し、気づけば貯金は激減。さらに息子夫婦との関係も最悪の事態に……。本記事では、「孫のため」と始めた行動が思わぬ結果を招いてしまった夫婦の苦悩について、FPの三原由紀氏が解説します。
70代年金暮らし主婦が“初孫フィーバー”で大暴走…2年後、「貯金枯渇」と「親子断絶」二重の危機に「よかれと思ってやったのに」【FPの助言】
適切な関係とお金の考え方とは?
この事態を重く見た正雄さんは、家族の仲介役を買って出ました。まず、ミネ子さんと話し合い、息子夫婦の立場に立って考えることの大切さを説いたのです。このままでは毎月の赤字だけに止まらず、貯金も底をつく危険性を指摘しました。
次に、息子夫婦とも率直に話し合う機会を設けました。その場で正雄さんは、「ミネ子の気持ちを汲んでほしい」と頼みつつ、「今後は、必ず事前に相談することを約束する」と伝え、さらに、五月人形の問題については、「一緒に良い解決策を考えよう」と提案しました。
例えば、コンパクトな五月人形に交換する、あるいは、正雄さん宅で預かり、毎年の節句の時期だけ飾るなど具体的な解決策を出したのです。
実は、こうした“孫フィーバー”による暴走はめずらしくありません。学術的にも老年期において、特にストレスがかかりやすい大きなライフイベントとして孫の誕生が示されています。
これを「ストレスフル・ライフ・イベンツ」といいます。孫の誕生は、一見、嬉しい出来事に思えることでしょう。しかし、孫費用や孫の面倒を見るなど節度を超えた関わりは、金銭や体力の面での負担になり、高齢夫婦の穏やかな暮らしを乱す大きなストレス要因となります。
ミネ子さんも節度を守りつつ、息子家族と関わっていたら、今回のような事態を避けられたかもしれません。
また、一般的なケースでも「孫育て」にかかる費用は意外と高額です。ソニー生命「シニアの生活意識調査2024」によると、祖父母が孫1人あたりにかける年間金額は平均約11万円。「おこづかい・お年玉・お祝い金」「一緒に外食」「おもちゃ・ゲーム」が主な支出項目となっています。
しかし、孫へ過度にお金を使うことは老後破綻のリスクを高めます。同時に、干渉しすぎることで、人間関係にヒビが入ることもあり得ます。
最後に、子ども世帯へ迷惑をかけないためにも、以下のポイントを提案しました。
金銭感覚の共有
年金生活者としての現実的な収支を息子夫婦に伝え、理解を得ることが大切です。無理なく続けられる範囲でのサポートを心がけること。
役割の明確化
孫育ては基本的に親の役割です。祖父母は脇役に徹し、必要な時にサポートする立場であると意識すること。
貯蓄の重要性
年金生活では、急な出費に備えて貯蓄を維持することが重要です。孫のためとはいえ、自身の生活を脅かすような出費は避けること。
非金銭的な愛情表現
お金を使わなくても、孫との時間を大切にすることで十分に愛情を伝えられます。公園での遊びや絵本の読み聞かせなど思い出作りを重視すること。
話し合いを通じて、家族全員が互いの気持ちを理解し合える方向に進むことを願ってやみません。
三原 由紀
プレ定年専門FP®