ビジネスシーンにおける音声×AIの活用例
音声データのAI活用は、営業力の強化やマーケティング、人材育成など企業活動のあらゆる場面で変革をもたらす力を持っています。
営業
商談や顧客対応の会話を録音し、AIで解析することで、「話すスピード、トーク比率、抑揚、相手に被せて発言した回数、沈黙回数、会話のラリー数」などを定量的に可視化します。ハイパフォーマーの話し方をもとに、研修や商談スクリプトを改善することで、営業部門全体のスキル向上が実現します。また、音声データを蓄積・分析することで「この業界は、何曜日のこの時間帯に電話をかけるとつながりやすい」といった、行動と成果の相関性も明らかになり、データに基づいた効果的な目標設定が可能になります。
音声データを営業活動に活用していくためには、まずは担当者にメリットを感じてもらうことも重要です。日常業務で音声認識を活用することにより、議事録作成や報告業務の時間が削減され、生産性が上がれば担当者は喜んで使うでしょう。音声データを活用するメリットを感じてもらい、自ら進んで使ってもらうようなシステムを導入することで、音声を活用したデータドリブンな営業活動が可能になります。
商品開発・マーケティング
これまで顧客の声を直接聞くには、BtoBの商品・サービスの場合は商談への同席、BtoCの場合にはグループインタビュー、テストマーケティングなど、実施に手間やコストのかかる手法が一般的でした。インターネットでの購買活動が一般的になってからは、アンケートやヒアリングの工数は以前に比べて軽減したものの、これらの手法はテキストデータによる回答収集にとどまることから、お客様の「本音」や「ニュアンス」を本当に聞けているのかという点には課題がありました。
顧客の声を「音声データ」として蓄積することで、顧客のパーソナリティ・ニュアンス・緊急度・温度感を伴う定性・定量データを、工数をかけることなく自動でリアルタイムにビッグデータとして収集でき、分析に活用できることから、マーケットインの商品開発やマーケティング施策の実現が可能となります。
大手金融機関では、 コールセンターでの会話をすべてビッグデータとして収集し、それを活用して顧客に合ったサービスの提案やマーケティング施策に活用し始めています。これまでコールセンターは、「コストセンター」などとみなされることもありました。これからは、顧客の声を音声データとしてAIを活用することで、「セールスセンター」や「マーケティングセンター」としての機能を持ち、利益を生み出す重要な顧客接点となり得ます。
人材育成/マネジメント
人材育成には、「指導スキルの差」「具体的な改善点を伝えられない」という2つの課題があります。音声データは、この課題解決にも大いに役立ちます。
「指導スキルの差」については、教え上手な社員の会話をAIで解析します。たとえば、部下に慕われる上司は「部下の話を遮らずに最後まで聞く」「相手と同じペースで話す」など、AIの話し方解析により指導スキルの差を生む要因が明らかになります。これまでブラックボックスだった優れた指導者のスキルを共有し、ノウハウとして蓄積することで、企業全体で育成力を向上させることが可能です。
「具体的な改善点を伝えられない」という点においても、たとえば、従来は「もっとゆっくり話す」「相手の話をよく聞く」などの抽象的なアドバイスに留まっていましたが、音声AIを使うことで「1秒あたり何文字で話すべきか」や「どれだけの時間を、話を聞くことに費やすべきか」など、定量的なデータを基に具体的な指導が可能になります。
また、話し方解析により、担当者が自らデータを見て振り返り、ハイパフォーマーと比較して改善点を見つけ、トレーニングする「セルフコーチング」が可能になります。人材育成の効率化、セルフコーチングが促進されるとマネジメント層の育成負担が軽減され、新たに生まれた時間で組織全体のマネジメントや自身のスキルアップに充てることができます。こうした取り組みは、組織全体のパフォーマンス向上に直結します。
AI社会で重視される企業の資産
今回紹介した活用例に限らず、企業活動のさまざまな場面で音声データを蓄積し、それらを分析することで、データに基づく意思決定ができるようになり、データドリブン経営を推進することが可能になります。
いままで資産といえば、金などの有形資産が主流でしたが、これからのAI社会では、画像、テキスト、音声などのデータという無形資産が企業の競争力を左右する時代になるでしょう。日ごろのコミュニケーションそのものに価値があるという意識をもち、コミュニケーション自体を資産化し、データ蓄積の文化を持つ企業が市場で競争力を高めていくと予想します。
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<著者>
株式会社RevComm代表取締役
會田 武史(あいだ・たけし)
三菱商事株式会社にて自動車のトレーディング、クロスボーダーの投資案件・新会社設立、M&A案件等に従事。2017年7月株式会社RevComm設立。電話解析AI「MiiTel Phone」、Web会議解析AI「MiiTel Meetings」、対面会話解析AI「MiiTel RecPod」を提供。著書に『音声×AIがもたらすビジネス革命 VOICE ANALYSIS』(幻冬舎)がある。