入居したばかりなのに…数ヵ月後に起きた「まさかの出来事」

入居当初、A夫妻は子どもを連れて頻繁にCさんのもとを訪れていました。孫にも頻繁に会えることから、「ここでの暮らしも案外悪くないな」と笑っていたCさんでしたが、だんだんとCさんの様子に変化がみられるようになります。

というのも、日々の仕事が多忙であることや元気な父親に対する安心感から、A夫妻は徐々に老人ホームへ通う頻度が減っていったのです。

その結果、Cさんは慣れない環境でのストレスとホームシックから、軽いうつ病を発症してしまいました。また、これが引き金となり、徐々に認知症と思われる症状もみられるように。

ある日、久しぶりにA夫妻が家族で老人ホームを訪れると、Cさんは開口一番「どちらさん?」と尋ねました。

また、別の日には「財布がない!」と部屋のなかをウロウロしており、「ここに置いてあるよ」とAさんがいつも入れてある引き出しから取り出して優しく伝えると「誰かに隠された!」と落ち着かない様子です。「違うよ、ずっとここにあったよ」と教えても、「お前が隠したんか!」と詰め寄ります。

見かねたA夫妻がCさんを病院へ連れていくと、Cさんは予想どおり、認知症を発症していることがわかりました。

Aさんは、「俺たちが施設を勧めたせいなのか……? こんなことになるなら無理に入居させなければよかった」と後悔しています。

日本の“平均寿命”と“健康寿命”の差が暗示する「家族の負担」

厚生労働省の調査によると、日本人の平均寿命(2019年)は男性81.41歳、女性87.45歳と女性のほうが男性より6歳ほど長く、人の手を借りずに自分で生活できる状態を指す「健康寿命」についても、(2019年)は男性72.68歳、女性75.38歳とこちらも女性のほうが男性よりも3歳ほど長い状況です。

出所:厚生労働省「令和4年版厚生労働白書(図表2-1-1 平均寿命と健康寿命の推移)※1」
[図表]平均寿命と健康寿命の推移 出所:厚生労働省「令和4年版厚生労働白書(図表2-1-1 平均寿命と健康寿命の推移)」

この平均寿命から健康寿命を差し引きすると男性で9年、女性で12年ほどの差があり、人の手を必要とする期間、つまり介護を必要とする期間が男女ともに10年ほどあることがわかります。

10年ものあいだ、家族が介護をするとなると大変な負担となることは想像に難くありません。