レジャーやスポーツ、音楽鑑賞など、子どもの成長に欠かせないさまざまな「体験」。しかし、子どもたち全員が享受できているものではありません。親の経済状況に大きく左右される「体験格差」の実態を、事例とともにみていきましょう。公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン代表理事の今井悠介氏が解説します。
なんで? お金ないの?…動物園は年に1回“無料の日”だけ。手取り月収15万円「シングルマザー」の悲鳴【インタビュー】 (※写真はイメージです/PIXTA)

小西さんの切なる願い

お金のことを勉強できる機会があったらいいなと思います。漠然と不安だけが募っている感じなので。高校に入学するときに私立ならいくら必要、県立ならいくら必要というリアルな数字が知りたいです。どこを目指せばいいのかわからないまま、ずっと走り続けてる感じなんです。

 

子どもたちが進学するときにお金のせいで我慢するんじゃなくて、自分が行きたい学校に行けるようにって。その邪魔になりたくないので。県立に行ってもらえたらと思ってはいるんですけど……。

 

―事前に想定していたよりもっとお金がかかってしまうことへの不安でしょうか。

 

いや、もうちょっと少なくて済むんじゃないかなという気持ちもあって。こんなに必死になってやらなくていいのかどうなのかがわからないんです。

 

こんなにキツキツにしなくていいのか、それともこれくらいはがんばらないといけないのか。それがわからないのにがんばるっていうのがしんどいですね。もし今節約しすぎていて、それで子どもにも迷惑がかかっているとしたら改善したいです。

 

有期雇用で不安定ですし、養育費も最近振り込まれなくなってしまったので、お金は貯めれるだけ貯めようみたいな感じになっています。

今は「体験」より「勉強」が優先に

―子どもたちにさせてあげられていないなと感じることはありますか。

 

上の子は「こどもちゃれんじをやりたいな」と言っていました。まだ離婚する前に一度やっていたことがあって、それでもう一回やりたいって。でも、払うのが大変ということもあるし、続くかもわからないからと言って、ちょっとやめておこうと。

 

今は私と一緒に勉強しようと言って、本人も納得してくれてる感じです。でも、相手のことを考える優しい子なので、私を困らせないようにと思って言っていないだけかもしれませんね。本当はいろんな思いがあっても。

 

学年が上がって、だんだん問題が難しくなってきて、算数でも漢字でも、テストでうっかりミスが出たり、授業だけではまったくわからないことも増えてきているんですね。今はまだ小学生なので、私が自分で教えられる範囲ではあるかなと思って、仕事の昼休憩の時間に本を読んで、勉強の教え方を学んだりしています。

 

弟は「バスケがやりたい」と言ってましたね。クラスで仲のいい子がバスケをやっていて。あと「スラムダンク」を見てかっこいい、やりたいって。バスケのクラブは週に2回、平日の夜に学校の体育館でやっているみたいなんですね。体力が余ってる感じもするので、やらせてあげたいんですけど、経済的な理由と、時間的な問題でできていなくて。

 

―お金以外の理由もあるんですね。

 

4時半に仕事が終わって、スーパーで買い物をしたりして、5時半ぐらいに家に帰ってきて、急いでご飯をつくって食べさせて、練習に連れていって、2時間ぐらいしたらまた迎えに行って、お風呂に入れて……、とやっていると、ちょっと私の体がもたないなと思っています。

 

親が二人いたら、色々と手分けできるんですけど、一人だとそれができない。全部自分でしなきゃいけないので。

 

だから、下の子はウズウズしていると思うんですけど、「バスケはちょっと待って」と言っています。もうちょっと大きくなって、次の日の学校の準備とか、自分のことがしっかりできるようになってから、それでもやりたいと言ったらやらせてあげようと思って。

 

お店で売ってたバスケの小さいゴールを買って、家の壁に取り付けてあげました。今は毎日それで遊んでいます。

 

―職場から帰ってきても、家でもずっと別の仕事が続きますよね。学校が終わった後、小西さんが家に帰ってくるまでの間は、子どもたちはどうされていますか。

 

学校が終わったらそのままほかの子たちと学童に行っています。でも、上の子は今年から定員オーバーで学童に入れなかったんです。同じ家庭の子どもでも、大きい子のほうが保育が必要な度合いが低いということで点数が低くて。だから、家で待っている感じです。

 

―お金の優先順位として、子どもの体験にかかるお金と、子どもの勉強や進学にかかるお金とを比べるとどうでしょうか。

 

やっぱり勉強にかけたほうがいいなと思います。体験のほうは、無料で参加できるイベントに応募している感じです。色々なことを体験するって、子どもの成長にとってはすごく大事なことですよね。でも、今はそれが後回しになってしまっているかもしれません。

 

 

今井 悠介
公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン
代表理事

 

※インタビュイーのプライバシーに配慮して名前は仮名とし、一部の情報に加工を施している。