2020年6月1日に施行されたパワハラ防止法をはじめ、ハラスメント対策が進んでいる日本。しかし、精神障害の労災認定件数は年間800件を超え、5年連続で過去最高を更新するなど「職場いじめ」は増加、深刻化が進んでいます。ハラスメント対策専門家の坂倉昇平氏は、著書『大人のいじめ』(講談社)にて「近年見られる職場いじめには、これまでとは異なる傾向がある」といいます。いじめが起きる職場の特徴や実例をみていきましょう。
近年相次ぐ、同僚による卑劣ないじめ
第二の特徴は、「職場全体の加害者化」である。現在でも、職場いじめの多くが経営者や上司によって行われている。
しかし、近年では、経営者や上司に限らず、先輩や同僚、部下など、広義の同僚によって、多くのいじめが行われている。最近の報道から例を挙げよう。
4ヵ月で給与84万円を取り上げ、オムツで働かせ、クレーンで吊るす
まず、香川県の金属加工を営む中小企業で起きた、先輩社員による10年以上に及ぶ凄惨ないじめを紹介しよう。あまりの酷さのため、加害者は2021年5月、高松地裁において恐喝罪などで懲役2年6ヵ月の実刑判決を受けている。新聞の報道によると、経緯は次の通りだ。
10年以上前、後輩社員の男性がミスをして怒鳴られたことをきっかけに、先輩社員によるいじめが始まった。男性に対する𠮟責の回数が増えるようになり、殴打などの暴力も受けるようになった。やがてミスのたびに「罰金」を取られるようにまでなった。
次第に暴力はエスカレートしていき、殴打には鉄パイプが用いられた。給料の大半も奪われるようになった。明らかになっている2020年6月〜9月の4ヵ月間だけで、奪われた金額は84万円に及んでいる。
さらに男性を裸にしてオムツを穿かせて仕事をさせ、水を大量に飲ませてトイレに行かせなかったという。天井のクレーンに吊り下げて振り回したこともあった。「家族を崩壊させる」と脅すこともあった。2020年に同僚が警察に訴えたことで、ようやく事態が公然化した。
とはいえ、会社はもともと被害を把握していたという。男性が上司に訴えても問題にせず、起訴されてようやく先輩社員を解雇した。別の同僚も、「いつものことという感じで、誰も騒がなかった」と法廷で証言した。
加害者である元先輩社員は「何度注意してもミスを繰り返すので嫌悪感が募った」「怒りの感情がコントロールできなくなっていた」と述べている。被害者の男性も「ミスをした自分が悪い」と発言し、罪悪感を植え付けられていたことがわかる。
坂倉昇平
ハラスメント対策専門家