2020年6月1日のパワハラ防止法施行をはじめ、ハラスメント撲滅の取り組みが進む日本。しかし、精神障害の労災認定件数は年間800件を超え、5年連続で過去最高を更新するなど、世の中にはまだまだハラスメントが溢れている状況です。そのなかでも、最も多いのがパワハラだといわれています。ハラスメント対策の専門家である坂倉昇平氏の著書『大人のいじめ』(講談社)より、2人の事例を交えてみていきましょう。
いじめによる労災認定は11年で10倍に
厚労省の「過労死等の労災補償状況」を見ると、こうした職場いじめによる精神障害やそれによる自死が近年急増していることがわかる。
労災による精神疾患といえば、長時間労働による過労が原因とイメージされることが多いだろう。しかし、長時間労働がまったくなくても、上司や同僚から「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」などの心理的負荷の強度が高い出来事があれば、労災として認定される。
2020年5月29日からは、パワハラ防止法の施行に合わせて、このいじめに関する出来事の項目は、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」と「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」の二つに分けられた。
実際に認定された労災のうち、この「いじめ・嫌がらせ・暴行」が精神障害を発症した一番の原因であると判断された件数は、調査が始まった2009年度は16件だったが、2020年度には170件と、11年で10倍に増えている(図表1)。自死した人数に注目すると、2009年度は1人だったが、2017年度には過去最多の12人が、いじめによる労災であると認定された。
坂倉昇平
ハラスメント対策専門家