余裕の老後のはずが一転、家賃5万円のアパート暮らしに

佐藤さんが全額受け取ることができるはずだった厚生年金部分の約150万円のうち、結婚してからの期間に相当する年間約70万円分を受け取ることと、預金資産のうち2,500万円を渡してもらうこと。これが晴美さんの要求でした。

離婚時の財産分割は、夫婦が婚姻期間中に築いた財産が対象となります。夫の厚生年金は、離婚時に年金分割の制度があり、婚姻期間中に夫婦が納めた厚生年金の記録を案分することができます。そのため一般的には婚姻期間中に相当する金額の50%まで分割可能になります。

退職金も婚姻期間中に形成された財産に含まれるため、預貯金など、婚姻期間中に増えた財産も多くの場合は半分までが分割の対象になっています。

晴美さんは自宅マンションを夫に渡す代わりに、相応の金額として合計2,500万円を要求してきたのでした。

「そんなに払えるわけないだろう!」

憤った佐藤さんでしたが、マンションの価値は3,000万円程度が見込まれるもので、本来晴美さんが受け取ることができる資産額は預金と合わせて3,000万円程度です。結局2,500万円の預金を晴美さんに渡すことを渋々飲み、離婚が成立しました。

とはいえ、預金は残り500万円、年金も晴美さんに年間70万円も渡すことになり、毎月の公的年金は手取りで月12万円程度です。佐藤さんは「このままでは暮らしていけない」と考え、マンションを売却することにしました。住む場所が必要ですが、これからの生活資金のことを考えると小さな中古マンションを買うといったことも難しいのが実情です。

その結果、佐藤さんは家賃5万円の安いアパートで節約生活を送ることになりました。自炊もできないので、スーパーで安いお弁当を買って1人で食べる日々。悠々自適の老後が待っていると思っていたのに、離婚と共に状況は一変しました。こうなって初めて、佐藤さんは妻と向き合ってこなかってこなかったことを後悔したのでした。