どんなに順風満帆に過ごしていても、何が起こるかわからないのが人生。夫婦で月33万円の年金を受け取り、穏やかな老後生活を過ごしていた中西夫婦(仮名)も、30代の息子宛てに年金機構から届いた「赤い封筒」をきっかけに、状況が一変します。一体、中西夫婦の身に何が起きたのでしょうか? 国民年金を滞納することで起こる「リスク」と「対策」について、ファイナンシャルプランナーの辻本剛士氏が解説します。
私ら、何か悪いことしたんでしょうか…年金月33万円・70代夫婦の「穏やかな老後」が一転、家を失う事態に戦慄。元凶となった、30代息子に日本年金機構から届いた「赤い封筒」の中身【CFPの助言】
督促状が届いた人の30%が「差し押さえ」になっている
日本年金機構が公表した「令和5年度業務実績報告書」によると、2023年度の赤色封筒に入った特別催告状は17万6,779件、「督促状」が10万2,238件送付されました。そして、最終的に「財産差押」となったのは、3万789件でした。
つまり、督促状が届いた人の30%が財産の差し押さえが実行されていることがわかります。差し押さえの対象になる財産は以下のものが挙げられます。
・給与
・不動産
・自動車
・終身保険
・有価証券
・債券
未納になっていた分をすべて納付し終わらないと差し押さえが続くため、生活に不便を強いられてしまいます。
国民年金を払えない場合の対策
「差し押さえ」という最悪の事態に陥らないためにも、以下の対策を検討することが重要です。
年金事務所や役所への相談をする
年金は納付しなかった分だけ将来受け取れる受給額が減ってしまうため、未納分を少しずつでも払いたいという人も多いです。
滞納していた分を免除ではなく納付したい場合は、年金事務所や役所に相談し、延滞分の分割払いの申請をしましょう。未納分を支払うことで将来受け取れる年金額を増額できます。
ただし、分割払いの最小単位は1ヵ月分の額になり、それ以下の金額に分割することはできません。1ヵ月分の金額を支払うのが難しい場合は、以下で説明する免除や納付猶予の申請をおすすめします。
保険料免除や納付猶予の申請をする
国民年金の支払いが困難な場合で、所得が一定額以下などの要件を満たす人は、「免除」や「納付猶予」を検討しましょう。この手続きをしておくと、保険料を払えていなくても未納にはなりません。
まず「免除」とは、保険料を納めることが経済的に困難な場合に、保険料を免除する制度です。所得に応じて、4段階で免除範囲が設定されています。また、免除された期間がある場合の年金額は、以下のとおり保険料を全額納付した場合と比べて低額となります。[図表1]
申請は年金事務所で行うことができ、所定の申請書に必要な書類を添えて提出します。
一方の「納付猶予」は、経済的な理由で一時的に保険料の納付が困難になった場合に利用できる制度です。本人・配偶者の前年所得が一定額以下の場合に、申請書を提出して承認されると保険料の納付が猶予されます。
ただし、猶予期間は受給資格期間に算入されますが、免除の場合とは異なり年金額には反映されません。年金額に反映させるためには保険料の追納が必要です。追納は過去10年以内までであれば、さかのぼって納付できます。
年金保険料を親が代わりに支払う場合は、控除が受けられる
親が代わりに保険料を支払うことも選択肢の1つです。国民年金の保険料は親が代わりに支払うこともできます。
親が国民年金保険料を代わりに納めることで、社会保険料控除を受けられます。これにより、年末調整や確定申告によって所得税や住民税の負担を軽減することが可能です。
差し押さえを避けるためにも、上記で解説した対策を早めに進めていきましょう。
辻本 剛士
ファイナンシャルプランナー