質の高いモノ・サービスが、安価で手に入る日本。これはひとえに企業努力の賜物ですが、実はこの裏で苦しんでいる人たちがいるのです。ルポライター増田明利氏の著書『お金がありません 17人のリアル貧困生活』(彩図社)より、クリーニング店オーナー(58歳)への取材でみえた、日本の小規模店舗が直面している“シビアな現実”を紹介します。
3万円のご祝儀がキツい。夫婦でクリーニング店を営む58歳男性、午後4時半で店番交代→自転車で15分かけてパート仕事へ…“安いニッポン”の裏で苦しむ「小規模店」の実態【ルポ】
昔は希望を持てていた…労働力が安く買い叩かれる時代を実感
「こんな塩梅なので4年前から交代で働きに出ているわけです。店は10時開店だけど昼3時まではわたしだけで切り盛りしている。嫁さんはというと9時30分から昼1時30分までの4時間、JRの駅中のコンビニで販売、レジのパート仕事をしているんです」
店の方はお客さんが少ないので受け渡しのかたわら作業できるし、お昼ご飯も店番しながら済ませているということだ。
「妻が戻ってくるのが2時前後。遅めのお昼を済ませ、ひと休みして店頭に出てくるのが3時半近く。入れ替わりでわたしが出勤するというわけです」
100円ショップでの仕事はレジ、商品補充、閉店後の清掃など。勤務時間は夕方5時半から閉店後の9時半までの4時間。
出勤するのは月火水金土の週5日、時給は1,060円。退勤したあとは大通りの反対側にある食品スーパーで値引きシールが貼られた肉、魚、お惣菜などを見繕って買っていくのも役目だ。
「外で働いてみてよく分かったのは、今の時代は本当に安く使おうと思っているんだなということ。なにしろ正社員は2人しかいないんだ、あとは全員パートの人」
夕方の時間帯は来客数が多いのでパートタイマーは8人配置されている。他に早番と中番が6人ずつで合計20人。
「パートはこんなにいるのに、正社員は30代半ばの店長と3年目の若い人だけです。そのうえ店長は別の店舗の管理もやっている」
店長が外出していてもう1人の正社員も休憩時間となると、何かあったときに責任を持って対処できる人がいない。
「労働時間もかなり長いみたいですよ。店長はほぼ毎日3時間は残業しているし、休みも週1。冗談で残業代が凄い金額になるんでしょって言ったら、そんなわけありませんよと口を尖らせていた」
残業代は実労働の3分の1ぐらいしか申請できないらしく、随分とタダ働きさせられているらしい。だからなのか正社員の定着率は低いということだ。
「もう1人の若い人が言うには、新入社員は3年経つと半分以上がいなくなっているそうです。彼も辞めたいみたいなことを言っていた」
当節は何かと生きづらいと言われているが、自分の身近なところで実際に見聞きすると嫌だなあと思う。
「昔はみんなそれなりに張り合いがあって希望も持てていたと思います。わたしなら独立して一国一城の主を目指そうとか。結婚したら頭金を作ってマイホームを買おう、中古車から新車に乗り換えようとか。それが今はどうですかね。朝から夜遅くまで働かされて、ただ生活しているだけという人が多いと思います。しがないパートのおじさんが自分のことを棚に上げて偉そうに言うなって笑われるかな」