お盆と言えば故郷に帰ってお墓参りをする――。そんな日本古来の風習が過去のものになるかもしれません。すでにお墓や納骨堂に納めた遺骨を他のお墓や納骨堂に移す「改葬」や墓石を撤去する「墓じまい」が増えています。厚生労働省の調査によると、「改葬」が2022年度、全国で15万1,076件にのぼり、過去最多に。墓じまいや改葬の背景には「お墓が遠方にある」ことや「継承者がいない」ことが挙げられ、樹木葬や海洋葬・山葬(散骨)などの選択肢も広がっています。平成から令和に変わり、お墓や弔いのカタチはどんなふうに変化しているのでしょうか? また、その背景にある社会や時代、人々の死生観の変化とは? 多様化する「令和の弔いのカタチ」について取材しました。
4人に1人が「葬式をしない」、3人に1人がお墓の形式を「決めていない」
変化するお墓や弔いの形ですが、親世代や自身の最期について考える機会が多いであろう中高年やシニア世代はどんな心理なのでしょうか?
「ハルメク 生きかた上手研究所」が2023年に50〜79歳の男女2,000人を対象に実施した「終活に関する意識調査」によると、自身の葬式の形式として「家族葬」と答えた割合は男性50.3%、女性が50.1%でほぼ同率で、「一般葬」は女性(3.5%)より、男性(7.6%)が倍以上の割合。一方で「一日葬」「直葬」は男性より女性の割合のほうが高いという結果になりました。また、「お葬式はしない」と回答した人は全体で24.9%、お墓の形式として34.9%が「まだ形式を決めていない」と回答しています。
同調査の結果について、「生きかた上手研究所」所長の梅津順江(うめづ・ゆきえ)さんは「特に私が注目しているのが、『お葬式はしない』と答えている人の割合です。全体で24.9%、つまり4人に1人が葬式はしないと考えているんです。詳しく見ると『まだ決めていない』という人も含まれているようなのですが、お墓の形式も3人に1人が『決めていない』という結果が出ました。
この調査を受けて読者のインサイトを探ってみたところ、『今は何が起こるかわからないし、自分もどうなるかわからない。自分たちが小さいときは永代供養なんて言葉もあまり聞かなかったし、お墓と言ったらいわゆる和型と言われるお墓。海に骨を撒(ま)くなんてドラマの世界の話で現実感がなかったけれど、今はそれが珍しくなくなった。デジタル社会でもあるので、自分が死ぬときには今のお墓のあり方とは違うものが出てくるのではと思っている。だから今は下手にいろいろ決めないほうがいい』という声が多いです」と明かします。
また、猛暑や気候変動による災害などが頻繁に発生していることを受けて、「お墓が流されてなくなる可能性もある。形がないものがいい」と答える読者も少なくないといいます。さらに一押しとなったのが、コロナ禍でした。
「都会に比べて地方では地元のしがらみや地域のつながりなどがまだまだ根強かったですが、コロナ禍で物理的に葬式や人を集めることができなくなった。それをきっかけに多くの方が死生観を考え直すきっかけになったとは思います」(梅津さん)
女性に顕著な「何も残さずきれいに去りたい」という傾向
シニア層の心理について、梅津さんは「先のことはわからないから、というのに尽きると思います。また、墓じまいした人のほとんどが『スッキリした』とおっしゃいます。断捨離の感覚で、いろいろ考えなくてよくなったら楽になったと。もちろん子供や残された家族に迷惑をかけたくないという気持ちもあるのですが、それはデフォルトというか当たり前。その上で、時代の流れに沿って、形があったものを形のないものに寄せていこうとしているのは面白いなと思っています。特に女性に『何も残さずきれいに去りたい』という傾向が強い」と指摘します。
インタビューに応じた藤原さんも「お墓を買おうと思えば買えたけれど母の場合はお墓にお金をかけるくらいだったら現金を遺してあげたいと思うタイプ。信仰している特定の宗派もないですし、樹木葬の管理費用も1年で1万円くらい。生前の母は我が強くて私とぶつかることもしょっちゅうでしたが、最期は自分の計画通りに事が進んで結果、私や兄にほとんど金銭的な負担もかかっていません」と明かしました。