「間食は太る」と言われる理由、それは間食によってインスリンがダラダラと分泌され続けることになるからです。世間ではインスリン=血糖値を下げるホルモンと認識されていますが、実はインスリンには「肥満ホルモン」という側面もあるのです。ダイエットでくじけないためには、不要なインスリン分泌を減らす工夫が欠かせません。糖尿病治療に詳しい團茂樹(だん・しげき)医師が、実践可能なダイエットのコツを伝授します。
「摂取カロリーを減らす」より「いつ何を食べるか」が重要。《医師直伝》無理なく続けられるダイエット【総合内科専門医が解説】
※本稿の内容は、医学博士ジェイソン・ファン氏の著書『トロント最高の医師が教える世界最新の太らないカラダ』(2019年、サンマーク出版)を参考に、筆者流にアレンジしたものです。
ダイエットは継続しなければ意味がない
短期間ダイエットとは、数週間から3ヵ月程度のダイエットのこと。炭水化物、タンパク質、脂質のどれを控えても実践可能です。つまりカロリーの問題ですから、自身が食べ過ぎていると思うものを減らせばいいことです。多くの人は「それなら、甘いお菓子や果物を控えよう」と考えるかもしれません。
ただ、ここで考えてほしいのは、短期間ダイエットが「短期間の禁酒や禁煙にどれほどの意味があるか?」と同様の話だということです。友達との賭けや水着の季節限定、あるいは階級別試合に合わせた格闘家なら、短期間ダイエットもアリかもしれませんが…。
一方の長期間ダイエットでは、開始して数ヵ月経つとなかなか体重が減らなくなる。そんな経験をお持ちの方も多いでしょう。これは意志が強い弱いにかかわらず誰にでも起こる現象です。「ホメオスターシス(恒常性維持機能)」という代償現象が働き、元の体重に戻そうと、自然と基礎代謝が落ちるからです。
適切な例えにはなりませんが、怪我しても自然治癒力で治ってくるように、元に戻ろうとする力が働くのです。逆に、太りたいと思っていっぱい食べ続けても、一定期間を過ぎると増量できなくなるのと同じ理屈です。
ともかく、この時期でくじけるとリバウンドしてしまいます。長期間ダイエットはホメオスターシスをいかに克服するかがカギです。
インスリンは「肥満ホルモン」でもある
インスリンと言うと炭水化物との関連で血糖降下作用がある事だけがクローズアップされていますが、インスリンには肥満ホルモンという側面もあります。
a)西洋人の基礎インスリン分泌量は、東洋人と比較して多いことがわかっています。両者の体型を比較すると容易に想像できると思います。
b)糖尿病で実際にインスリン注射治療を受けている患者さんのなかには、カロリーを減らしているにもかかわらず体重増加を経験されることが多いはずです。
ちょっと硬い話になりますが、ここでインスリンと三大栄養素の関係を手短に説明します。
インスリンはすべての栄養素を体内の各臓器に取り込む作用があります。これが肥満ホルモンと言われる所以です。
(1)糖質代謝に対して
a)インスリンは、血液中のブドウ糖を、筋肉をはじめ肝臓や脂肪組織などに取り込む。
b)インスリンは、肝臓や骨格筋において、余ったブドウ糖からグリコーゲン合成を促進する。
c)インスリンは、肝臓において余剰な糖質を中性脂肪へ変換する(脂肪新生)。脂肪新生でできた脂肪は、肝臓や脂肪組織および筋肉などに蓄えられる。
(2)タンパク質代謝に対して
インスリンは骨格筋に作用して、アミノ酸の細胞内へ取り込む。インスリンが有効に働かないと、筋肉が落ちてしまう。
(3)脂質代謝に対して
インスリンは脂肪分解(組織中にある中性脂肪の分解)を抑制する。
長期間ダイエットに必要なのは、余分なインスリン分泌を減らす工夫
長期間ダイエットを実現するには、必要なときにインスリンが鋭敏に働くことが大事です。しかしそれ以外のときには、インスリンという肥満ホルモンがダラダラと出続ける状態を抑制することが求められます(糖尿病の方は元来インスリン反応低下がありますので、主治医と相談してください)。
では、どんな工夫が必要なのかを見ていきましょう。まずは何をいつ食べたらいいのか?です。
【①何を食べたらいいのか?】
●避けたいもの…インスリン分泌の多いもの
・炭水化物のなかでも食物繊維が取り除かれている精製された穀物
⇒しかし主食で穀物を摂るときは、一緒にタンパク質や食物繊維をしっかり摂ること。例えば豆腐、納豆、肉や魚介類、緑黄野菜やきのこ類などと一緒に摂ると大丈夫です。
・砂糖やブドウ糖果糖液糖を多く含むおやつや飲料水、果物の食べ過ぎ
●摂りたいもの…インスリン分泌が少ないもの
おやつや飲料水が欲しいときには、代わりに以下を摂りましょう。
・食物繊維:ナッツ類、キアヌ、チアシード、枝豆、コンニャク
・お酢やリンゴ酢
・水、炭酸水、コーヒー(インスタントは炭水化物の粉なので避ける)、赤ワイン適量、お茶
・ダークチョコレート、チーズ
・いい脂質:ナッツ類、乳製品、アボカド、(野菜と共に)オリーブオイルやMCTオイル
●迷う食品
・脂質とタンパク質を多く含む肉や魚
・いいタンパク質:大豆製品や鶏ムネ肉や赤身肉
⇒脂質が多いとインスリン分泌は少ないですが、肥満につながります。鶏ムネ肉のようにタンパク質が豊富なものはインスリン分泌効果があり、筋肉も増えて体重増加につながる可能性はありますが、筋力アップで基礎代謝を上げるには有用と考えます。
【②いつ食べたらいいのか?】
一日3食と適度なおやつを摂る生活で、単純にカロリーを控えるダイエットであれば、上述したようにホメオスターシスが働き、基礎代謝が落ちて元の設定体重に戻ってしまうでしょう。
長期間にわたるダイエットには、カロリー摂取量というより「不必要なインスリン分泌を減らす工夫」が大事です。
一日のうちでインスリンが分泌される時間をできる限り短くする工夫。それはつまり、ダラダラ食いを止めることです。もしダラダラ食いをするなら、上述のインスリン分泌しづらい食品に変えてみるといいでしょう。あるいは自分のライフスタイルにあった無理のないプチファスティング(断食)も一案です。
もともとインスリン分泌反応が低下している糖尿病や境界型糖尿病のときは危険ですが、そうでないという条件のもとであれば、食事を摂る時間を8時間以内に納めるという手もあります。例えば12時に昼食を摂ったら、夕食は20時までに済ませます。そのほかの16時間は、飲み物としては水・お茶・ドリップコーヒーに限り、食べ物はダークチョコやチーズおよびナッツ類に準じたものを少しだけ摂る、という方法が実現しやすいかもしれません。これをヒントに、自分の生活スタイルにあわせて無理のないアレンジをしてください。
インスリン分泌反応は「適時的確」であることが重要
糖尿病患者さんに見られる傾向として、空腹が長時間続いたあとの食事では、インスリン分泌反応が遅れがちです。インスリンは適当な時間に的確に分泌されることが理想です。
8時間ダイエットをする際は、糖尿病のない方でも長い空腹状態の後のインスリン分泌反応が低下しているかもしれません。そのためにまずは、1食目を摂る10〜30分前にタンパク質10g以上を摂ることを勧めます。例えば鶏ムネ肉などのようなタンパク質が豊富な食材やプロテインなどで良いでしょう。このときに摂るタンパク質には、インスリン分泌をスムーズに促す目的があります。
そして8時間の食事の際は、女性ではタンパク質60g以上、男性では65g以上を心がけ、筋肉を落とさないようにすることを勧めます。この食事の際のタンパク質も、追加のインスリン分泌効果を狙ったものです。
筋肉をつけて基礎代謝を上げることも必要
やはり長期間ダイエットには、運動で少しでも筋肉をつけて代謝を上げることが必要です。そのためには、手軽にできる、根性論もいらない運動の習慣化が必要です。
a)純粋な嫌気性運動は速筋(そっきん)、別名“白色筋”との関係が言われています。きつい負荷がかかり、ジムや特殊な器具を必要とします。
b)有酸素運動は遅筋(ちきん)、別名“赤色筋”との関係が言われています。
ただし、どちらの筋肉をつけるにも場所と時間の問題があります。
そこで筆者がイチオシするのが、桃色筋肉運動。これは以前、NHKの番組で取り上げられた内容にヒントを得たものです。
特に糖尿病の方には、食後なるべく早くスクワットや壁押し、相撲の鉄砲などを行う習慣をつけるようにアドバイスしています。これにより食後血糖値を下げると同時に、筋肉を少しでもつけるのです。
糖尿病のない方でも、自宅や職場で工夫して、自分に合った軽いレジスタンス運動(いわゆる筋トレ)を毎日チョコチョコ行うことです(⇒実例は『食後すぐ「5分間だけ」やればOK!血糖値スパイクの抑制を意識した“手軽な運動”【総合内科専門医が解説】』で解説)。
ダイエットに王道はありませんが、本稿が「自分に合う無理のないダイエット」を始める一助になれば幸いです。
團 茂樹(だん・しげき)
宇部内科小児科医院 院長、総合内科専門医
日本大学医学部附属病院で血液のガン治療に従事した後、自治医科大学へ国内留学、基礎研究分野の経験を経て大学病院や地方病院に勤務。その後、遺伝子研究の本場・カナダオンタリオ州立ガンセンターで遺伝子生物学に関する基礎研究に従事。帰国後、那須中央病院の内科部長を経て、宇部内科小児科医院副院長に就任。その後3年間、千代田漢方クリニック院長を兼任。以来16年余り漢方治療を導入。2010年から現職。2015年に総合内科専門医を取得。
総合臨床医として様々な症例に携わるとともに、臨床で培った経験や医療情報の中から選りすぐったアドバイスを行うダイエット法には定評がある。著書に『糖尿病は炭水化物コントロールでよくなる』(2022年6月刊行、合同フォレスト)がある。