糖尿病の方が食事において気にするべきは、カロリーではなく「ブドウ糖の量」。ただし、高GI食品だからといって、必ずしも「糖尿病患者にはNG」というわけではありません。糖尿病治療に詳しい團茂樹(だん・しげき)医師が、血糖コントロールに役立つ実践的な知識を紹介します。
血糖値を下げるには、「バランスの良い食事」をしっかり摂ること
糖尿病の方こそ贅沢な食事を! 1日3回、主食・主菜・副菜が揃ったバランスの良い食事をしっかり摂るほど血糖値は下がります。
そう聞いて「でも、いっぱい食べたら血糖値が上がるでしょ?」と思う方も多いでしょう。
しかし糖尿病の方こそ、「主食のみ」などと控えるのではなく主菜も副菜をもたくさん食べて、メニューを楽しむべきなのです。
そのことを理解するために、やや小難しく思えるでしょうが、本稿で述べる「GI値」「GL値」「wtGL値」についての理解を深めてください。
GI(Glycemic index)値について
GI値という名称は聞き覚えのある方も多いでしょう。これは食材が血糖値に与える影響を見る指標です。
GI値測定の対象となる食材は以下です。
<GI値の測定対象>
i)ご飯・パン・蕎麦・うどん・パスタなど、主食である穀物
ii)果物類、芋類、おやつや飲料水、甘味類、種実類の栗など、通常の摂取量で血糖値に影響を与える食べ物
「①上記の食材に含まれる炭水化物量」を「②コントロールとして使うブドウ糖」と同量取って食後血糖への影響を求め(①②をそれぞれ50gとして検査するのがスタンダード)、それをブドウ糖と比較・表示したものがGI値です。
GI値はネット上でも調べられます。ちなみに筆者は主にFood Hack.comを利用しています。
ただしネットには、GI値を知る必要のない食材もよく掲載されています。タンパク質や脂質食品および緑黄野菜など、ほとんどブドウ糖を含有しない食材については、わざわざGI値を調べる必要はありません。私はこれらの値は無視しています。
■GI値の問題点
筆者は冒頭で、「GI値」「GL値」「wtGL値」についての理解を深めることを提言しました。なぜGI値だけでは足りないのか? それはGI値が、同量のブドウ糖との比較計算をするために、食品によっては通常摂取量をはるかに超えた量で測定されることがあるからです。また、GI値の単位は比率(%)であり、肝心な量はわかりません。
例えばじゃがいもは高GI食品です。しかし、じゃがいもを10g食べるのと100g食べるのとでは、血糖値への影響はまったく違いますよね?
何を食べるかだけではなく、何をどれだけ食べるかを知る必要があります。そこで、GI値の不備を補うべく出てきたのが、次の「GL値」です。
GL (Glycemic load)値について
食後血糖値に影響するのは、炭水化物食品中のGL値(ブドウ糖換算量)です。GL値は【炭水化物量(糖質量)×GI】で計算します。
■GL値の問題点
ただし、一般に掲載されているGL値は、摂取量を食品100gまたは食品1人前に固定して算出された数値です。結局、GL値でも「実際の摂取量がどれだけ血糖値に影響するか」はわかりません。
そこで「wtGL値」の出番です。
wtGL(weight GL)値について
wtGL値は「実際に食べる炭水化物食品量」で計算されるブドウ糖換算量です(ちなみに筆者の造語です)。この量こそ、食後血糖変動に直接影響を及ぼすものです。
wtGL値は【実際に食べる炭水化物量(糖質量)×GI】で算出します。
前述のGL値のように、wtGL値も料理全体から算出することができます。
・料理全体wtGL値
⇒炭水化物食品を含む実際に食べる料理全体のGI値から計算されるブドウ糖換算量。【実際の食べる料理中の炭水化物量(糖質量)×料理全体GI】で算出します。
「ご飯だけ」より、「牛丼」や「天丼」のほうが血糖コントロールに有効
ここまで「GI値」「GL値」「wtGL値」という3つの指標を解説しました。
■「食材単体のGI値」より「料理全体のGI値」のほうが低い
「GI値」には「料理全体GI値」もあります。
・GI値
⇒各食材単独で計算される数値。ネットで見られる情報はこちらの値です。
・料理全体GI値
⇒食材単独ではなく、それらを同じ量含む料理全体として計算される数値です。種々の条件により値が変化するため、当然、ネット上には掲載されていません。しかし1つ言えるのは、「料理全体GI値<GI値」ということです。
■主食と主菜を一緒に摂れば主食単独よりもインスリン分泌効果がアップする
なぜ食材単独のGI値よりも料理全体GI値が低くなるのか。それは以下の通りです。
<ポイント>
●ブドウ糖のみならず、タンパク質から得られるアミノ酸*もインスリン分泌作用がある(*タンパク質はアミノ酸に分解されたうえで吸収される)。
●食物繊維にはブドウ糖の吸収を抑制する効果がある。
「ご飯だけ」など、主食の穀物を単独で食べるより、肉や魚、豆腐、卵などのタンパク質食品を一緒に摂りましょう。その分、インスリン分泌の上乗せ効果が期待できます。
緑黄野菜や、きのこなどに含まれる食物繊維には、主食に含まれるブドウ糖の吸収を抑制する効果が期待されます。
上記の理由から、「主食だけ」ではなく、主菜と副菜もしっかりたくさん摂るべきなのです。
また、じゃがいもを10g食べるのと100g食べるのとでは血糖値への影響はまったく違うと述べたように、高GI食品だからといって食べられないわけではありません。考えるべきは「何を“どれだけ”食べるか」です。そこで、最終的に紹介したのが「wtGL値」。「実際に食べる量」からブドウ糖換算量を求めた指標でしたね。
■「炭水化物単体のwtGL値」より「料理全体のwtGL値」ほうが低い
「料理全体GI値<GI値」であることを考慮すると、炭水化物の量が同じなら「炭水化物食品だけのwtGL値」よりも「料理全体wtGL値」のほうが当然低値となります。ですから、糖尿病の方こそ「炭水化物食品のみ」ではなく主菜と副菜もたくさん食べ、料理を楽しむほうがむしろ良いのです。
例えば、ご飯の量が同じなら、「ご飯だけ」より牛丼や鰻丼、お寿司、天丼、海鮮丼など。調味料による血糖値への影響も無視して構いません。そもそも血糖値に影響を及ぼすほどの過剰な量は摂らないでしょうから。
これはパスタや麺類、ピザなどの料理に関しても言えることです。糖尿病の方こそ、おかずを増やして美味しい料理を楽しんだほうが良いのです。
團 茂樹(だん・しげき)
宇部内科小児科医院 院長、総合内科専門医
日本大学医学部附属病院で血液のガン治療に従事した後、自治医科大学へ国内留学、基礎研究分野の経験を経て大学病院や地方病院に勤務。その後、遺伝子研究の本場・カナダオンタリオ州立ガンセンターで遺伝子生物学に関する基礎研究に従事。帰国後、那須中央病院の内科部長を経て、宇部内科小児科医院副院長に就任。その後3年間、千代田漢方クリニック院長を兼任。以来16年余り漢方治療を導入。2010年から現職。2015年に総合内科専門医を取得。
総合臨床医として様々な症例に携わるとともに、臨床で培った経験や医療情報の中から選りすぐったアドバイスを行うダイエット法には定評がある。著書に『糖尿病は炭水化物コントロールでよくなる』(2022年6月刊行、合同フォレスト)がある。