「老後資金を増やしたい」その一心で、貯金の半分近くを新NISAに投資した65歳の西郷徳太郎さん。しかし、その決断が彼の生活を一変させることに……。市場の荒波に翻弄される心と眠れぬ夜を過ごす日々。徳太郎さんの経験から、年金生活者が陥りやすい投資の罠と、それを回避するための具体的な方法を、FPの青山創星氏が解説します。
「新NISAなんてやるんじゃなかった…」老後資金不足で投資を始めた年金月13万円・元会社員65歳がスマホを握りしめ「後悔に震えた」ワケ【FPの助言】
新NISAでストレスなく投資をするために知っておくべきこと
永瀬さんは、徳太郎さんの投資状況を詳しく聞いた後、投資初心者の注意点を含めて、どのような選択肢があるのかについて説明しました。
1.新NISA口座の特徴と注意点
新NISAは非課税で投資できる、メリットの大きい制度ですが、この口座を使えば必ず儲かるわけではありません。通常は売却時に利益があると約20%の税金が引かれますが、新NISA口座を利用すれば、その税金がかからないというのがこの制度の仕組みです。儲けがなければ得することはありません。
2.新NISAの投資枠別特性
つみたて投資枠の商品は、金融庁の条件を満たした低コスト長期運用商品に絞られているので比較的安心です。一方、成長投資枠の商品は商品数は多いですが、積立投資枠よりも条件が緩く、選択には慎重さが必要です。両枠の商品とも金融庁は利益や元本を保証しているわけではありません。
3.長期投資の重要性
徳太郎さんは現在65歳ですが、65歳の男性の平均余命から計算した平均寿命は84歳です。老後資金としてなら約20年間の投資期間があります。これは長期投資に十分な期間です。
4.積立投資と一括投資の比較
一般的に、積立投資は安全と思われがちですが、必ずしもそうではありません。5年間の元本割れ確率は一括投資で14.1%、積立投資で17.8%、20年では各2.0%、3.2%というデータがあります(世界の株価平均と同様の動きをする投資信託の場合)。
つまり一括投資の方が元本割れ確率は低くなります。積立投資では後半に購入する資産の運用期間は短くなるためです。ただし、積立投資は心理的負担が少ないメリットがあります。購入価格が平均化され、評価損益の変動が穏やかになるためです。一括投資は投資開始後から価格変動による評価損益の変化が大きくなります。価格変動に敏感な方には積立投資が有効な場合もあります。
結局、積立が良いか一括が良いかは一律に決められません。データと自分の状況、心理的耐性を考慮しての選択が重要です。
5.分散投資の重要性
一つの資産に集中投資すると、万が一投資先が暴落したときに資産全体がダメージを受けることになります。そのため、投資先は分散することが大切です。株式だけではなく債券やその他の資産にも分散して投資する商品である「バランス型」の投資信託を使えば、期待リターンは低くなりますが、比較的安定した運用ができます。
6.リスク許容度に応じた商品選び
全世界の株価に連動した投資信託を選んでおけば大丈夫と誤解している方も多いですが、そうではありません。リターン重視の方は株価連動のもの、リスクを下げたい方や価格の動きが気になる方はバランス型のもの、価格の動くものは嫌という方は預貯金や国債というようにリスク許容度に応じた商品選びが重要です。
7.投資信託の選び方
アクティブ型の投資信託は、プロでも選ぶのが難しいです。投資初心者には、つみたて投資枠の手数料も安いインデックス型の投資信託が有力な選択肢の一つです。
8.資金の性質に応じた運用
日常の生活費や緊急時用の資金は預貯金、短期(10年程度以内)で使う特定目的のお金は低リスクの商品(預貯金や個人向国債、バランス型投資信託等)、にしておくという選択肢があります。老後資金として20年間程度以上の投資期間がある場合は、ある程度リスクをとって株価連動の投資信託で大きく増やすという選択肢もあります。ただし、この場合は自分の心理的耐性を考慮しての選択が重要です。
9.投資教育の重要性
投資には、最低限の勉強が必須です。自分で自信をもって判断できる力を身につけることが大切です。しっかり学び自信があれば、価格下落時に怖くなってあわてて投げ売りしてしまうことも避けられます。