同じ遺伝子を持つ一卵性双生児の研究からは、遺伝と子育てに関する数々の興味深い研究がおこなわれています。一卵性双生児の研究には、遺伝に関する画期的な発見がなされる可能性を秘めているのです。本記事では、日本における双生児法による研究の第一人者である安藤寿康氏の著書『教育は遺伝に勝てるか?』(朝日新聞出版)から一部抜粋し、遺伝と子育てについて解説します。
同じ特徴でも親の受け止め方次第で、親子関係が変わる
また次の例も、子育てを考えるうえで示唆に富み、私の好きな話です。
双子の女子が幼児期に別れ、それぞれ異なった養父母に育てられた。(中略)2人が2歳半になったとき、1人の子供の養母に、いくつかの質問を試みた。母親は養女のショーナについて、何の問題もないと言った―食習慣を除けば。
「この娘はどうしようもありません。私が与えるものには手も触れません。マッシュ・ポテトもバナナもだめなのです。シナモンがなければ何も食べません。何にでもシナモンをかけるのです。私の我慢も、もう限界です。食事のときはいつも闘いです。何にでもシナモンをかけたがるのですもの」
この子の家からずっと遠くに住んでいたもう1人のほうの養母は、養女の食習慣に問題があるとは一言も言わなかった。
「エレンはよく食べますよ」と言って少し間をおいた母親は、こうつけ加えた。
「シナモンさえかけてやれば、何でも食べてくれますから」
遺伝的なものから生まれてくる全く同じ特徴も、それを育てる親がどう受けとめるかで、親子関係が異なったものになることが、この例からうかがわれるでしょう。
親が子どものために自分の行動を変えようとしても、思い通りになんかいかないのだとすれば、子どもに対する親としてのあなたの生き方が変わるのではないでしょうか。
安藤 寿康
慶應義塾大学名誉教授・教育学博士