ブロックチェーン、Web3はどのように社会を変えるのか? ビットコインなどの仮想通貨投資は定着したものの、それ以外の応用についてはいまだに形が見えず、一時期の熱気を失っている様子の現在、興味深い先行事例となるのが中国です。「暗号通貨は絶対禁止」の一方で、「ブロックチェーン大国を目指す」という方針を持ち、まさに暗号通貨以外のブロックチェーン社会実装に真っ向から取り組んでいます。今回はそんな中国の事例を紹介するとともに、日本社会のブロックチェーン実装の未来予測について、ジャーナリストの高口康太氏が解説します。
幻滅期のブロックチェーン、中国の社会実装が示す新たな可能性

習近平総書記も出席中国でブロックチェーンの勉強会が開催

 

2019年10月、中国共産党中央政治局において、「ブロックチェーン技術発展の現状と趨勢」をテーマとした学習会が開催されました。中国共産党中央政治局とは習近平総書記を筆頭に中国共産党の最高幹部が集まる組織です。国のトップがブロックチェーンの勉強会を開いていることにも驚かされます。

 

席上、習近平総書記は「ブロックチェーン技術のアプリケーション統合は、新たな技術革新と産業変革において重要な役割を果たす」と指摘し、国としてブロックチェーン技術の開発と発展に取り組むよう訓示しました。その後、第14期5カ年計画など国の重要政策にはブロックチェーンが取りあげられるようになったほか、地方政府レベルでもブロックチェーン推進政策を展開しています。

 

その一方でビットコインなどの暗号通貨は禁止されました。海外の取引所を使って投資している中国人も一定数いますが、中国本土在住者に対する暗号通貨の販売や仲介ですら刑事罰に問われるという厳しい規制だけに、暗号通貨投資は下火となっています。

 

つまり、世界ではもっとも主流の用途である暗号通貨という利用法を禁じた上で、別の利用シーンを模索しているわけです。イーサリアムなど国際的なブロックチェーン・インフラを使わず、中国独自のインフラを築いている点は異質ですが、利用シーンの模索という意味で見ると、世界の国々にとってまたとない教科書となっています。

中国で利用されているブロックチェーン技術の例

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

では、中国はどのような形でブロックチェーン技術を利用しているのでしょうか。今年2月、中国共産党中央ネットワーク安全情報化委員会弁公室は「中国ブロックチェーン応用事例集2023年版」を発表しました。66件ものブロックチェーン技術利用事例を紹介しています。


いくつかご紹介しましょう。

 

・生態環境データ・ブロックチェーン・固証プラットフォーム
河北省衡水市では市政府環境関連部局や警察と共同で企業の汚染物質排出状況などをブロックチェーンで記録しています。排水を検査する専門のデバイスを開発し、いつ、どこで収集したデータなのかがリアルタイムでブロックチェーンに記録されます。

 

政府機関ですら改ざんできない環境データを記録することで、裁判になった時にもこのデータは従来以上に強力な証拠となります。また、単一の管理者がいない分散型台帳の利点を生かし、複数の政府機関と企業のデータを自動的に突き合わせることもメリットです。


・教育デジタルデータ信頼サービスプラットフォーム
現在、河南省鄭州市と北京市の計6大学で採用されているソリューションで、学生や授業に関するデータを共有する仕組みです。異なる地域の異なる大学に所属する学生の在学証明や成績をオンラインで証明できることで、就職やインターンの際に必要な証明書の発行などが簡便化されます。

 

また開講する授業のリストを共有化することで、重複する授業については併合し、リモートで受講し単位を取得することもできます。授業数を減らす経費削減の効果もあるとのこと。

 

試験成績や単位認定についてはブロックチェーンで安全に共有されます。単一の管理者がいない脱中心化の特長から、複数の大学が安全にデータを共有できるのが強みです。


・中国伝統薬代理煎じサービス
伝統医学に基づく薬品は錠剤やカプセルだけではなく、材料を煮出して飲むという昔ながらのモノもあります。専用のポットなども売られていますが、それでも手間なので病院が代わりに煮出して患者宅に配送するのが一般的なのだとか。

 

ただ、こうしたサービスを使う患者には「この煮出した薬には、本当に高価な伝統薬剤料が使われているのか?」と疑心暗鬼になる人が多いことが課題となっていました。確かに煎じ終わった、茶色い液体だけ見ても何の薬なのか素人にはわかりません。

 

このシステムでは薬の卸売事業者や病院、配送業者などの作業記録をブロックチェーンで記録し、改ざん不能な信頼できるデータとして患者が確認できるようにしています。


・ブロックチェーン地域診療プラットフォーム
小さな病院で診察を受けた後、重病の恐れがあるとして大病院に転院する。その後、最初の病院で受けたものと同じ検査を受ける二度手間に閉口する。日本でもよく聞く話ですが、中国でも社会課題として認識されていました。

 

江蘇省では病院間のカルテや検査結果、処方せん記録などをペーパーレスかつ安全に共有する仕組みを構築しました。重複検査を減らし、また病院間で診療記録や見解を共有することで医療の質と効率を向上させることを期待しています。

 

ここで紹介したのはごく一部の事例で、他にも食品トレーサビリティや製造業サプライチェーン管理、はたまた税金支払い記録などさまざまな分野での取り組みがあります。

 

脱中心化の特長を生かした、複数の機関や企業によるデータ共有。透明性と普遍性を生かした、信頼できるデジタル記録。ここにポイントを置いて、さまざまな社会実装を試みているわけです。