「水を毎日2ℓ飲む!」は間違い

・腎機能が低下すると水分制限が必要になってくる

成人が1日に必要とする水分摂取量は、体重1kgあたり0.5ℓといわれているので、体重が50kgの人は2.5ℓ、70kgであれば3.5ℓとなります。この必要な水分量を摂取する方法は、次の3つです。


(1)体内で代謝により生成される水分(約0.3~0.5ℓ)


(2)食事から摂取する水分(約1.0~1.2ℓ)


(3)直接口から摂取する水分


(1)と(2)で約1.3~1.7ℓになるため、(3)の直接口から摂取する水分量は、必要な水分量の約半分、つまり1.0~2.0ℓほどになります。もちろん、汗の多い・少ないによって必要とする水分量は異なりますし、夏と冬でも異なるため、一概に1日2ℓの水を飲むようにおすすめするのは、少々乱暴ではないでしょうか。

・必要な水分量は、人によって異なる

体内の水分を調整しているのは、もちろん腎臓です。腎臓は尿をつくり、身体に溜まった水分を外へ排泄してくれています。腎機能が低下すると尿の産生能力が下がり、体外に出せる水分も少なくなるため、水分が身体に溜まって、体重が増える原因に…。腎機能が悪くなっている人は、水分摂取量を控えめにする必要があるのです。


まだ若くて腎臓に問題がなく、元気な人であれば、飲んだ水分が2ℓでも3ℓでも、外に排泄できるでしょう。ところが、年をとると腎臓のパワーが落ちる人が多く、若い人と同じようにガブガブ飲んでしまうと、むくみの原因になってしまいます。必要な水分量は、男女でも、年齢や身体の動かし方によっても異なります。スポーツに取り組んでいる若い人が1日2ℓ摂ることと、家にずっと閉じこもり、あまり動かない年配の人が1日2ℓを摂るのとでは、まったく意味が変わってくるのです。

・テレビの情報は鵜吞みにしない

テレビの影響はとても大きく、「水を飲めば健康になる」と番組で言われると、実直に実践してしまう人がとても多く見られます。テレビで放送されていた内容を鵜吞みにしている人に「水分を少し減らしてくださいね」といくら説明しても、必要以上に水を摂ってしまう人がいなくなることはありません。その結果、いつまでもむくみがとれにくくなるのです。


足がむくむだけでなく、肺のまわりにも水が溜まるようになってくると、心臓が弱い人の場合、やがて呼吸すらできなくなってしまうこともあります。医師として言わせてもらえば、腎臓や心臓の悪い人にとって、水分は毒でしかありません。水を摂らないように伝えることも多く、水分の摂り方を理解していただくことは、本当に難しいと感じています。

・毎日体重を測り、自分の適切な水分量を知ろう

では、自分にとって適切な水分量をどのように測ればいいのでしょうか? それは、1日の尿の量+αを見ることです。「+α」というのは、不感蒸泄(人が感じることなく皮膚や粘膜、吐き出す息から蒸発する水分)や有感蒸泄(汗の量)を差しています。でも、これらのものを計測することは、現実的ではありません。ですから、患者さんには体重を常にチェックするよう伝えています。


水分摂取量が多い人は体重が上がっていくので、体重が増える傾向が見えたときは水分を摂りすぎている可能性があります。もちろん、食べすぎて体重が増える場合もあるので、バランスを見ながら可能性を見極めなければいけません。水分の摂りすぎで体重が増えている場合、足がむくむといった兆候があらわれます。


一番確認しやすい方法は、毎日同じ時間に、同じ服装で体重を測ることです。前述した通り、水分以上に控える必要があるのは、塩分です。なぜなら、塩分を摂ることで身体に水分を溜める機能が働いてしまうからです。

・排尿は1日4~6回、夜間は0~1回が適切

排尿は、1日あたり4~6回が適切であると言われています。夜間であれば、0〜1回までが適切な回数でしょう。いつも夜中に排尿で起きてしまうとしたら、水分の摂りすぎかもしれません。日中に水分を摂りすぎると、消化吸収されて尿になって出てくるまでに時間がかかるため、尿の出るタイミングがちょうど寝ている間にぶつかってしまうことも…。


夜にアルコールを飲む習慣がある人は、飲んでそのまま寝てしまい、夜中にトイレで起きてしまうこともあります。尿の量は、このように水の摂り方からかならずチェックしましょう。これも一つの目安になるので、かならずチェックすべきポイントと言えます。

・年をとると頻尿になる

尿に関わることなのでお話ししますが、中年以降の男性に多い前立腺肥大になると、膀胱の能力と尿の蛇口に当たる前立腺にバランスの乱れが生じ、尿をたくさん溜められなくなってしまいます。そして、「頻尿」になってしまうのですが、この場合、1回あたりに排出する尿の量は多くありません。若い人なら、膀胱に尿を1~2ℓ溜めることができ、2ℓに近づくと尿意を感じて、溜まった尿を一気に放出します。


ところが、高齢の人の場合、0.5ℓほどしか溜まっていない段階で尿意を感じ、トイレに行くことになるのですが、1回あたり300ccほどしか出ないことがあります。溜まったすべての尿を出しきれず、200ccほどが膀胱に残り、次に尿が300ccほどつくられたとき、また500cc程度で強い尿意を感じて300ccを出す。この繰り返しになってしまうのです。この頻尿も、老化現象の一つと言っていいでしょう。

別府浩毅

医師