60歳で定年退職した後も、再雇用で働く予定の人は少なくないでしょう。しかし、再雇用時には多くの場合、賃金が下がってしまうのがネック。「それだったら、スッパリ辞めてゆっくりと定年後の生活を楽しもうかな」と思う人もいるかも知れません。そこで、再雇用で減った給与を補う「給付金」について、具体的な事例を交えてみていきましょう。角村FP社労士事務所の特定社会保険労務士・CFPの角村俊一氏が解説します。
嘘だろ、再雇用で月給45万円が27万円に減るなんて…59歳・定年直前サラリーマン、夜な夜なスナックで恨み節も思わぬ朗報に歓喜!「えっ、65歳まで給付金がもらえるの?」【社労士が解説】
「失業時」以外にも使える雇用保険
雇用保険といえば「失業給付」を思い浮かべる方が多いと思われます。しかし、雇用保険からの給付は「失業時」だけではありません。雇用継続給付、教育訓練給付、育児休業給付など、労働者の離職を防いだり、能力開発を支援するための給付も設けられています。
雇用保険制度は大きく3本の柱で成立しています。
Aさんが耳にしたのは失業等給付の中の雇用継続給付です。雇用継続給付とは、雇用の継続が困難な状況にある労働者の離職を防ぎ、雇用の継続を支援する給付のこと。高年齢雇用継続給付と介護休業給付が設けられています。
介護休業給付:介護休業を取得した場合、給付金が支給される
現役時代よりも賃金が下がるという状況は働くモチベーションに大きな影響を与えます。定年後も引き続き働くことをためらう原因にもなりますから、賃金が下がった定年後再雇用者のモチベーションの維持・喚起を図ることを目的とした制度が高年齢雇用継続給付です。
Aさんはいくら貰えるのか?
高年齢雇用継続給付には、高年齢雇用継続基本給付金と高年齢再就職給付金があります。Aさんが定年後も働き続けた場合に貰えるのは高年齢雇用継続基本給付金です。
この給付金は、60歳以後の賃金が60歳時点の賃金の75%未満となっている方で、以下の2つの要件を満たした方が貰えます。
① 60歳以上65歳未満の一般被保険者であること
② 被保険者であった期間が5年以上あること
Aさんは再雇用後も雇用保険の被保険者のままであり、また、入社以来40年近く勤務してきたので①、②の要件は満たします。賃金も60歳時点の60%なので、「60歳以後の賃金が60歳時点の75%未満となっている方」もクリアできます。
よって、Aさんは65歳の再雇用終了時まで高年齢雇用継続基本給付金を貰うことができます。
では、いくら貰えるのでしょうか?早見表をみてみましょう。
Aさんの60歳到達時等賃金月額は45万円です。60歳以降各月の賃金は27万円なので、給付額は45万円と27万円が交わった部分、月に40,500円となります。年間で50万円近い金額です。
毎月の賃金以外に40,500円の給付金は悪くはありません。賃金と合わせて31万円以上となるので、現役時代の30%減にとどまります。しかも、給付金は課税の対象となりません。これだったら働き続けてもいいかなとAさんは働く意欲が湧いてくるのを感じました。
超高齢社会を迎えた日本。60歳で定年退職したとしても、65歳まで働き続けることができる環境は整備されています。しかし、定年後も働き続けるとしても、現役時代と定年後では労働条件が変わります。Aさんのように現役時代よりも収入が減ることもありますし、場合によっては仕事内容が大きく変わることもあるでしょう。
厚生労働省「令和4年簡易生命表」によると、60歳地点での余命は男性約24年、女性約29年です。定年がみえてきたら勤務先の再雇用制度などを確認するとともに社会保険制度を調べ、そのまま勤務するのか、別の道を進むのか、地域での活動に力を入れるのかなど、リタイアメントプラン、高齢期の過ごし方を具体的に考えてみたいものです。
角村 俊一
角村FP社労士事務所代表・CFP