大学へ行くための国家試験「バカロレア」とは?

フランス人にとって大きな試験、バカロレアについて見ていこう。これは、世界共通の大学入学資格プログラムである国際バカロレア(IB)とは別物だ。

フランスのバカロレアとは高校卒業資格のこと。大学に入学するには、バカロレアを通過したうえで、自分の希望する大学へ進む。つまり、各大学でそれぞれ入学試験があるわけではない。

「えっ、バカロレアを通過したら、どこでも好きなところへ進学できるの?」

このように驚く人もいるだろうが、基本的にそのとおり。ただし、それぞれの大学の入学者数は決まっているので、必ずしも自分の要望が実現されるわけではないし、大学入学後に授業についていけず、留年したり退学したりする人も多い。

塾も予備校もいらない理由

フランスのバカロレアは「一般」、「技術」、「職業」の3つの区分に分かれている。「一般」の区分は主に大学進学を目的とし、「技術」と「職業」の区分は専門学校や技術系の短大への進学を目的とする。

「一般」バカロレアは文系・理系・経済社会系に分かれていて、それぞれ受験科目や問題が異なる。主な受験科目は、国語、哲学、数学、地歴、理科、外国語など。試験は7日間にわたり実施され、1科目につき3時間から4時間という長丁場だ。

国語は予備試験として高校2年生で、その他の科目は本試験として高校3年生で受験する。国語の試験ではテーマを選び、それについての考えを記述したり口頭で答えたりする。わたしが受けた国語の試験では、フランスの詩人ボードレールの詩を分析した。

哲学の試験では1つの問いに対して4時間かけて口頭で答え、レポート用紙4ページほどの文章を書いた。出題される問いとは、「自由とは何の障害もないということか?」「不可能を望むことは不条理であるのか?」といった抽象的なものである。

日本ではコンピュータが採点する選択肢問題も多いが、フランスではほとんど見られない。そのため、自分の考えを書いて話すための準備が必要だ。

基本的に塾はない。家庭教師に教わる子もいるが、ほんの一部だ。学校で勉強したらバカロレアは通過できる、と考えているからだ。学校で勉強しても点数がとれないのなら、塾に通うお金がない家庭の子が損をしてしまう。

フランス教育省によると、バカロレアの通過率はおよそ9割。残る1割は再受験してもいいし、別の道を選んでもいい。またバカロレアは高校で行う試験のため、中学卒業後に働いている子は受けられない。あくまでバカロレアは大学への入口なのだ。

ただし2020年は新型コロナの特別措置により、バカロレアが免除での卒業となった。厳密にいうと平常点での採点となり、合格率は95.7%に。2019年の88.1%を大きく上回った。この年の卒業生は歴史に残る人たちとなったのだ。ラッキーではあるけれど少々不名誉な歴史として……。

同じことが学生運動の盛んだった1968年にも起こった。その年もバカロレアを免除されて全員卒業できたため、時折「彼らはとても優秀だ」などとジョークとして持ち出されることがある。