厚生労働省の人口動態統計(令和4年)によると、結婚した夫婦の4組に1組は再婚。特に近ごろはシニア層の再婚件数が増えていることがわかります。再婚自体は当然、自由意志ですが当事者間だけの問題とはいかず、トラブルとなるケースも少なくないようで……。本記事では幸利さん(仮名)の事例とともに、行政書士の露木幸彦氏が熟年再婚の注意点について解説します。
前妻との間の疎遠な30代息子・娘の教育費に“5,000万円”支払った54歳父が「アラ還再婚」を望み…資産潤沢な父の申し出に、小さく頷いた〈子の真意〉【行政書士が解説】
法律婚と事実婚の違い
籍を入れない事実婚と、入れる法律婚は大きく異なります。法律婚の場合、戸籍上の妻は2分の1の法定相続分(法律で決められた相続分)を有しており、生命保険の受取人になることは問題なく、遺族年金も受け取ることができます。
事実婚の場合はどうでしょうか? 戸籍上の妻ではない彼女に法定相続権はありません。また生命保険の受取人になったり、遺族年金を受給したりするのは簡単ではありません。なぜなら、煩雑な書類を揃え、戸籍上の妻と同等だと証明しなければならないからです。
いままで彼女は幸利さんに尽くしてきましたが、幸利さんに万が一のことがあった場合、大半の財産は息子、娘が手に入れます。彼女にはほとんど残りません。彼女の年齢を考えると経済的に厳しい状況になります。彼女は都内での仕事を捨てて幸利さんと一緒になったのです。
もともと幸利さんには前立腺の肥大の傾向があったのですが、医師から「いつ前立腺の癌になってもおかしくない」と釘を刺されており、そのことも彼女の焦りを助長しました。
もともと相続と介護はトレードオフではありません。たとえば、相続させるから介護して欲しい。介護しないのなら相続させない。これはどちらも間違っています。相続は相続、介護は介護で別に考えるべきです。しかし、遺産をもらう側は切り離して考えられないでしょう。遺産をもらったら介護しなければならないというプレッシャーを感じるはずです。遺産が多ければ多いほど、そのプレッシャーは大きくなります。
子どもたちの了承を得て、再婚が実現
そのことを踏まえ、幸利さんは意を決して息子、娘に問いかけたのです。「どう考えているのか」と。そうすると、父親(幸利さん)になにかあっても引き取りたくないと答えたのです。「それなら彼女に託していいのか」と続けると、2人は小さく頷いたのです。
幸利さんはようやく子どもたちの承諾を得ることができたのです。後日、役所に婚姻届を提出し、幸利さんと彼女は戸籍上でも正式な夫婦になりました。