厚生労働省の人口動態統計(令和4年)によると、結婚した夫婦の4組に1組は再婚。特に近ごろはシニア層の再婚件数が増えていることがわかります。再婚自体は当然、自由意志ですが当事者間だけの問題とはいかず、トラブルとなるケースも少なくないようで……。本記事では幸利さん(仮名)の事例とともに、行政書士の露木幸彦氏が熟年再婚の注意点について解説します。
前妻との間の疎遠な30代息子・娘の教育費に“5,000万円”支払った54歳父が「アラ還再婚」を望み…資産潤沢な父の申し出に、小さく頷いた〈子の真意〉【行政書士が解説】
再婚したいが…憚られる理由
「1人ではなにもできないと悟ったのは彼女のおかげです。『前』と比べて自分にも他人にも寛容になりました」と笑みを浮かべるのは幸利さん。
「前」とは離婚のこと。彼は34歳のときに前妻と別れており、それ以降はずっとフリーの状態。このまま再婚せず、一人で余生を過ごすつもりでした。幸利さんの地元はサーフィンで有名な観光地。そこでサーフィン三昧の暮らしをしていました。そんななか、3年前に友人の紹介で同じ年の女性と知り合いました。
彼女もバツイチで、結婚生活の苦労話を投げ合っているあいだに意気投合。彼女は都内に住んでいましたが、彼女が幸利さんの地元にやってきて、一緒に住むことになったのです。しかしいまだに籍を入れず、同棲の状態を続けています。幸利さんにとって悩みの種は前妻とのあいだの息子(32歳)、娘(30歳)の関係。
私立の高校、海外留学、そして大学の獣医学部(息子)と薬学部(娘)……なんの相談もなく前妻が2人の進路を決定。幸利さんがいわれるがまま支払った総額は5,000万円超。現在、前妻とは完全に音信不通ですが、かろうじて2人とは接点があり、年始には年賀状で孫の誕生を知る程度には付き合いがあります。
幸利さんと彼女は夫婦同然の生活を送っていますが、なぜ、「夫婦」にならないのでしょうか?
「彼女から何度も頼まれています。でも、なかなか踏ん切りがつかなくて……。この年になって再婚なんて息子たちがどう思うか」と懺悔します。もし彼女と籍を入れた場合、2人の相続分は半分に減ります。法律で決められた相続分を法定相続分といいますが、幸利さんが再婚せず、遺言を残さなかった場合、息子、娘それぞれ2分の1ずつです。しかし、再婚した場合は4分の1ずつに下がります。2人は幸利さんが母(前妻)を裏切ったと感じるでしょう。孫を通じての交流が途絶えることを心配していたのです。
しかし、彼女はなかなか籍を入れないことを不満に思っていました。とはいえ、あまり露骨に言うと財産目当てだと勘違いされ、幸利さんとのあいだに溝が生まれ、関係がこじれる危険があります。そのため、あまり強く言うことを控えてきました。