フライトアテンダントとして働いていると様々な乗客との出会いがあります。いい出会いばかりであればよいのですが、なかにはトラブルに発展しないよう苦慮する場面もあるようで……? 本記事では『国際線外資系CAが伝えたい自由へ飛び立つ翼の育て方 当機は“自分らしい生き方”へのノンストップ直行便です』(KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集し、バンクーバー在住・現役CAのRyucrew氏が乗客に対する「うまい立ち回り方」の例をご紹介します。
「今回だけ特別ですよ」と決して言わないワケ
機内持ち込みの荷物の対応で困ることもあります。
あるとき、中世ヨーロッパの貴婦人がかぶるような、とてもゴージャスな帽子をかぶって搭乗されたお客様から、「この帽子を絶対につぶれへんところに収納して」と言われたことがありました。
クローゼットのある機材もありますが、小さな機材にはそのようなスペースがありません。また、仮にクローゼットがあったとしても、それはビジネスクラスのお客様のためのものであり、エコノミークラスのお客様の荷物は入れられない決まりになっています。
ひとりのお客様の要望を受け入れてしまうと、ほかのお客様にも同じように対応しなければならなくなるので、「今回だけ特別やで」ということは絶対にしません。
帽子を預かれないことを伝えてもなかなか納得してもらえず、頭上のオーバーヘッドビン*を1個分丸々開けて、そこに自分の帽子だけを入れるように言われましたが、もちろん無理な話です。
このお客様とはしばらく揉めましたが、最終的には「帽子がつぶれるのが嫌なんやったら、かぶっとくか、自分の手で持ってもらうしかありません」と伝え、そのお客様には6時間のフライトの間、ご自身で帽子を管理していただきました。
荷物に関してよくあるのが、ウエディングドレスを持ち込むケースです。北米はウエディングドレスが安いので、レンタルするよりも購入する人が多いようです。
メキシコのカンクン*やハワイで式を挙げるのに、ドレスをスーツケースに入れずにカバーをかけただけの状態で、手荷物として搭乗されるのです。
やはり「しわになったらダメだから、棚をひとつ開けてほしい」と言われます。もちろんできませんから、収納したカバンの上に載せてもらうようにお願いしています。
あとは、食事でしょうか。
ヴィーガンやベジタリアンのように食べるものを制限されている方や、宗教上や健康上の理由から食事に制約のある方もいらっしゃいます。機内食には、そうした食事の制約がある方に対応したスペシャルミール*があります。
事前にリクエストさえしていただければ用意することができるのですが、搭乗後や機内食を提供するタイミングになって申告され、提供できないとお伝えすると、しばらくごねられるお客様も稀にいらっしゃいます。
そういうときには、機内に食べられそうなものがあれば提供しますが、次回からは搭乗前に必ずリクエストしていただくようにお願いしています。
*ビジネスやプレミアムエコノミー
各社クラスの設定や呼び方は異なる。私が在籍する航空会社にはファーストクラスの設定はない。
*オーバーヘッドビン
座席の上部に取り付けられた収納スペースで、手荷物や小物を収納するために利用される。
*カンクン
メキシコのユカタン半島にあるリゾート地で、白い砂浜と青い海が美しい観光地。豊かな自然と歴史的な遺産が魅力で、多くの観光客が訪れる。
*スペシャルミール
食事制限や食習慣に合わせて提供される特別な食事オプション。例えば、ベジタリアン、ヴィーガン、ハラール、無菌食、低塩食などがある。
Ryucrew
現役CA(キャビンアテンダント)