日本のほとんどの家庭にあるといわれている「家紋」。戦国時代の武将をイメージする方が多いと思いますが、現代でも紋付袴に家紋を入れるなど、日本ならではの文化として残っています。そもそも家紋とはいつごろなんのために生まれ、どんな意味が込められているのでしょうか? 山陰地方で呉服店を経営、和と着物の専門家である池田訓之氏が、意外と知らない「家紋」について解説します。
着物に入った家紋の意味
礼装着としての着物には、家紋を入れますね。これは、家紋を通じて、互いに家柄を確認しあい暗黙に礼を尽くしあうためです。
また、着物に家紋を入れるときには、正式には、背中と両方の胸と両方の外袖とに、5つ入れます。背中や胸の家紋を入れるところは急所ですよね。家紋には急所を守るお守りの意味があるのです。外袖の紋には外敵から着る人を守るという意味があります。
そして、背中の紋にはご先祖、両胸は父母、外袖には兄弟姉妹が宿ると言われ、ご先祖から兄弟姉妹までが団結して着る人を守ってくれるのです。だから、結婚式に5つ紋の入った留袖を着るということは、ご先祖様にも、新郎新婦を披露しているということになるのです。実際、昔は、結婚式でのお色直しの折には、花嫁だけでなく、親族も先祖が着ていた留袖に着替えたそうです。ご先祖様にも、新郎新婦を披露し、祝福してもらったというわけです。
また、お守りということで、女性は19歳の厄除けに向けて、黒紋付(喪服)を揃えるという習慣があります。最近は、お葬式に紋付を着る方が少なくなりましたし、着てもレンタルが多いし、そもそもお家の家紋すらご存じでない方が増えました。
これは、戦前はこのような習慣が母から娘へ孫へと、代々語り継がれていたのですが、敗戦後の連合軍主導の教育により日本の伝統文化の伝承は完膚に分断され、また戦前世代がほぼいなくなってきたためでしょう。日ごろ弊社の着物店の店先に立っていて、昨今は目に見えて、日本の伝統文化が風化してきているのを感じ、危機感すら覚えます。
冒頭のとおり、家紋の文化は日本が世界に誇れる伝統文化のひとつです、子や孫に語り継ぎ、大切な場面には家紋入りの着物で参加する伝統を守っていきたいものです。
池田 訓之
株式会社和想 代表取締役社長