日本のほとんどの家庭にあるといわれている「家紋」。戦国時代の武将をイメージする方が多いと思いますが、現代でも紋付袴に家紋を入れるなど、日本ならではの文化として残っています。そもそも家紋とはいつごろなんのために生まれ、どんな意味が込められているのでしょうか? 山陰地方で呉服店を経営、和と着物の専門家である池田訓之氏が、意外と知らない「家紋」について解説します。
ヨーロッパのエンブレムとの違い
家紋と対比できるものとしては、ヨーロッパのエンブレム(紋章)があげられるでしょう。
こちらは、貴族などもともとは身分の高い人だけが身に付けることを許されていた特権でした。コロナ前に筆者がロンドンで着物専門店を営んでいた折に、お客様がエンブレムを彫った指輪をしておられたので、エンブレムを褒めると、お客様は得意げにご自分の家のルーツを語ってくれたものでした。エンブレムの柄は、宝冠、龍や獅子といった、戦う、強いというイメージの柄が多いです。まさに権威、支配を象徴しています。
かたや家紋は、家族の健康や子孫繫栄です。日本人って奥ゆかしいですよね。
この違いを生み出しているのは、ヨーロッパと日本の価値観の違いだと思います。ヨーロッパは、厳しい自然環境の地が多く作物が育ちづらいので、人々は狩りをして生活をしてきました。地続きのなかで移動を繰り返すと、どうしても争いが絶えません。そのなかで生まれた考え方とは、「絶対的な神がこの世を創り(一神教)、できたこの世はサバイバル。強いものが生き残り、全体としてみれば進化向上していく」というもの。だから自己主張、権威を重んじるのです。
かたや、日本は温暖で種をまけば作物が得られ、移動する必要もない。また島国なので外敵に荒らされることもなかった。だから、万物に神の存在を感じ、人間同士や自然とのつながりを重視する和の心が育まれたのでした。