映画やドラマがおもしろいと、誰かに伝えたくなるものです。そのときに「さわりの部分だけ説明するとね…」と言って、冒頭がどんなストーリーなのか話すこともあるでしょう。しかし本来「さわり」は「冒頭」という意味ではないのです。このように、日本にはいつの間にか元と違う意味で浸透してしまった言葉があります。今回はそんな日本語の本来の意味について解説します。
「雨模様です」、雨は降っている? 降る前?
「雨模様」
「今日は、朝から雨模様です」と、テレビのキャスターが伝える場面が映ります。夜半から降り出した大粒の雨で濡れる路面とそこを行き交う通勤通学の人たちをカメラは映し出していました。ここでは、「雨模様」という言葉は、すでに「雨が降っている状態」という意味で使われています。
しかし、本来「雨模様」とは、「雨がこれから降り出しそう」「雨になりそうな天気」を意味する言葉です。
「雨になってしまいそうな様子」のことを、古語では「あまもよい」「あめもよい」と表していました。この「もよい」とは、「催す」の意味で、「推移する」「そうなるらしい風情」「それらしい様子」という状態を指す言葉です。現代でも、「眠気を催す」などで使われたりしますが、眠いだけであって、まだ眠ってはいませんよね。
つまり、「あめもよいです」と言えば、まだ雨は降っておらず、これから降りそうな状態だということになるでしょう。「雨模様」は、「あめもよい」が変化してできた言葉です。だとすれば、「雨模様」も、「これから雨になりそうだ」ということになります。
これが、平成15(2003)年度の「国語に関する世論調査」では、「小雨が降ったりやんだりしているようす」と回答した人の割合が、「雨が降りそうなようす」と回答した人の割合を上回ったように、この頃から、テレビやラジオでも「雨模様」を「雨が降っていること」として誤用されるようになったのです。
「雨模様」に対して、「晴れ模様」という言葉もあります。こちらも「雨模様」と同じように、「晴れそうな空模様」「晴れそうな気配」という意味ですので、あわせて覚えておきましょう。
山口 謠司
大東文化大学文学部中国文学科教授