会話が苦手な人と、コミュニケーションを円滑にとれる人は、それぞれに共通点があります。では、後者が高度なテクニックを使っているかというと、まったくそうではありません。円滑なコミュニケーションのコツとはいったいなんなのか。『「嫌いな人」のトリセツ 人付き合いがラクになる37の習慣』(総合法令出版)より、著者で心理コンサルタントの林恭弘氏が詳しく解説します。
意地を張ると、どんどん自分を追いつめる
相手に対して意地を張ってしまい「ひと言」が言えなくなり、人間関係がこじれてしまうことがあります。
例えば夫婦ゲンカをした翌朝、険悪な空気が朝の食卓で流れていたとします。それでもどちらからともなく、「おはよう」のひと言が出れば、昨夜の“決着”がつかなくても険悪な空気は収束してゆきます。
「おはよう」のひと言が言えない夫婦は、険悪な空気のまま何日か、何週間かを過ごすことになります。それは互いに“くだらない意地を張る”からです。
おそらくは心の中で、「くそー、オレ(ワタシ)は悪くないぞ。悪いのは、間違っているのは相手なんだから。あやまってなんかやるものか。機嫌とって挨拶なんかしてやるものか」なんてつぶやいているはずです。「負けないぞ。負けてなんかやるものか」という、子どもじみた“勝負”をしているわけです。
誰にでも自分を“正当化したい”という思いはあるものです。それは当然のことかもしれません。「自分にも非があった」と認めるのは、ちっぽけなプライドが傷つくからです。しかし、そのちっぽけなプライドを守るために意地を張って、家庭や職場の空気を険悪なものにするのであれば、考え直してみる必要があるでしょう。相手もイヤな空気を吸い続けるのはつらいでしょうし、あなた自身も同じ空気を吸い続けることになるわけです。
そもそも、意地を張って“勝負”に出ても、何の意味もありません。
仮に勝ったとしても、自分の幼稚さにどこかで嫌気がさすはずです。相手との関係が良くなるはずもありません。
「大人の対応をした」相手からすると、“子どもじみた”あなたが醒めた目に映っているかもしれません。
人間関係において、“勝負”に出て、勝利して幸せになることはありません。勝てば勝つごとに、人が離れて行って孤独になるばかりです。ちっぽけなプライドを守るために、相手を攻撃したとしても、収穫など何もないわけです。
社会の変化によって、時間的・精神的な余裕がなく、価値観も多様化する中で、円滑なコミュニケーションが難しくなってきていると言われています。
企業のリーダークラスの人たちは、会社から用意された研修会に参加し、2日間、3日間のトレーニングを受けて現場に帰ってきます。そしていざ、学んできたコーチングやカウンセリングのコミュニケーション・テクニックを使ってみるのですが……。
失礼かもしれませんが、彼らは見事に“スベッて”います。
「ぎこちない」「わざとらしい」「慣れていない」などの理由も考えられるのですが、部下や後輩からすると、ただ一言「信じられない」わけです。
今までさんざん“勝ち負け”で意地を張り続けてきた人が、研修から帰ってきたある日突然、「話し合おう」なんて言うことを信じられないわけです。「うまく動かしてやろう」という魂胆が見え見えなのです。
コミュニケーションに関して、心理学の理論や手法を学ぶ人が急激に増えています。しかし、かえってコミュニケーションが下手になっている人のほうが多いような印象を受けます。それは、自分に少しでも非があれば、「ごめんね」と言える素直さが欠けているからではないでしょうか。そして相手が未熟な部下・後輩であっても、「ありがとう」と言える感謝の気持ちが欠けているからではないでしょうか。
「ありがとう」「ごめんね」と言える素直な心がなければ、理論もテクニックも通用はしません。
あなたがもし、イライラしてムカついている人がいて困っているのなら、それは相手のせいばかりではないのかもしれません。自分を“正当化”するために、そしてちっぽけなプライドを守るために、意地を張り優位に立とうとしていないか、確かめてみる必要があるでしょう。
林 恭弘
ビジネス心理コンサルティング株式会社
代表取締役