老若男女問わず、多かれ少なかれ「嫌いな人」「苦手な人」はいるでしょう。そのような相手と接していると、思わずイライラしてしまうものです。では、この「対人ストレス」から解放される方法はないのでしょうか。心理コンサルタントの林恭弘氏の著書『「嫌いな人」のトリセツ 人付き合いがラクになる37の習慣』(総合法令出版)より、苦手な人とのコミュニケーションで注意したいポイントをみていきます。
嫌いな人・苦手な人に感じるイライラから解放されたい…「対人ストレス」を激減させるコミュニケーションのコツ【心理コンサルタントが解説】
自分の嫌なところと似ているから
“拒絶したくなるようなイライラ”の理由に、「相手の中に、よく似た自分を見る」というものがあります。これは心理学で「投射(投影)」と言います。
「自分と異質のものに遭遇するとイライラする」と書きましたので、矛盾するようですが、そうではありません。
例えば女児を持つお母さんたちの多くが、娘を見ていてとても嫌な感じがしてイライラすることがあります。それは娘が嘘をつこうとしているとき、ズルいことを考えているとき、叱られてお父さんに取り入って助けてもらおうとしているときなど、その前にわかってしまうからです。
「お母さんにはわかるのよ。あなたズルいことを考えているでしょ!」
これは、自分が子どもの頃にしていたことと、いま目の前で娘がしようとしていることがダブるからです。かつては自分の中にもあった、嘘をついて自分を守ることや、“女性”をつかってうまく取り入ることなど、思い出したくない部分なのでしょう。それは、まるで自分のイヤらしい、あるいは未熟な部分を再現ビデオで見せられている気分になるのです。
あるいは、未熟な部下にイラつく人も同じ文脈かもしれません。世間知らずで、仕事もできないのに社会をナメていたかつての自分を、目の前にいる部下と重ね合わせて見てしまうのでしょう。
これらの共通点は、今の自分とは違う―いや違うと思いたい、かつての未熟な自分を、相手を通してまざまざと見せつけられている気分になるということです。
つまり、「自分と相手は異質だ」と思いたいイライラなのです。
このイライラの解決方法も、「あきらめる」ことになります。相手の未熟さも、はしたない言動も、人間がみな持っている要素なのです。それは確実に、あなたの中にも存在するのです。
わが子を見ていて、部下や後輩を見ていて、何やら“痛痒い”気持ちになるとしたなら、かつての自分にもそういう時期があったのでしょう。
嘘をついて自分を守ろうとする人、うまく取り入って利益を得ようとする人を見つけて、許せないようなイライラを感じるとしたなら、自分にも同じ要素があるからです。
つまり「はしたないことを堂々とやるあの人は、私とは異質だ」と思いたいのです。でも実際には“同質”です。そのことを認めたくないから、イライラするのです。“自分との闘い”をしているわけです。
そうすると解決策はやはり、「自分も子どものころは、甘えていたよなあ」「新人のころは未熟だったよなあ」「嘘をついてでも、自分を守りたくなる弱さって、あるよね」と、自分にも同じような部分があることを、「あきらかにみとめる」ことでしょう。つまり、自分の未熟なところ、弱いところを“受け入れる”のです。
逆に、「受け入れたくない」ということは抵抗することですから、自分の未熟な部分を嫌っているのです。つまり、他人に対する嫌悪感には、「同じ未熟な部分を宿している自分」に対する“自己嫌悪”がその源にあるということです。
イライラ解消の方法は、やはり自分に対する“あきらめ”ということでしょう。
林 恭弘
ビジネス心理コンサルティング株式会社
代表取締役