金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」[単身世帯調査](令和5年)によると、50代の38.3%、60代の33.3%が「金融資産を保有していない」そうです。平均寿命が延び、老後の資金計画の重要性が高まるなか、蓄えがない状態で老後を生きるにはどうすればよいのでしょうか。株式会社よこはまライフプランニング代表取締役でCFPの井内義典氏が、具体的な事例を交えて解説します。
後悔しています…〈年収600万円・貯蓄ゼロ〉の59歳サラリーマン、定年後の“長すぎる老後”に絶望→「なんとかなりそうだ」と立ち直れたワケ【CFPの助言】
筆者がAさんに伝えた「国からもらえるお金」の存在
給与は下がっても…継続して働けば「高年齢雇用継続給付」が受給可能
当たり前のことですが、すでに使ってしまったお金はもう戻ってきません。このままでは、老後の生活もままならなくなる可能性があります。いままでどおりの散財はできないことをまず認識し、節約をしながら少しでも余裕のある老後を送れるように備えることが重要です。
Aさんは60歳から再雇用で大幅に給与が下がるものの、継続して勤務していれば65歳まで雇用保険制度から「高年齢雇用継続給付」が支給されます。
Aさんの場合、年間で45万円、65歳までの5年間で225万円程度支給される計算です。生活費や貯蓄に回せるほか、贅沢はできずとも娯楽費に活用することも不可能ではありません。
年金の「繰上げ受給」はデメリットが大きい
「知り合いから、年金は65歳より前からもらえるって聞いたんだけど」と話すAさん。たしかに年金については65歳から支給のところ、繰上げ(=前倒し)をして早く年金を受給する制度があります。もっとも早く受け取りたいという場合は、60歳0ヵ月から受給可能です。
しかし、繰上げをすると減額される点には注意が必要です。1ヵ月繰上げるごとに0.4%、5年繰り上げて60歳0ヵ月から受け取ると24%(0.4%×60月)減額となります。
また、繰上げ受給は一見魅力的に思えますが、早く年金を受け取れる分「年金収入もあるから」とついついお金を使いすぎてしまうことも少なくありません。65歳以降にゆとりを持った暮らしを希望する場合、辛抱しなければならないなかでの繰上げ受給は得策ではないでしょう。
さらに、先述の高年齢雇用継続給付を受けることで、年金(老齢厚生年金)の一部(最大で標準報酬月額=月給の6%)は調整されてしまいます。
Aさんが確認した年金額はあくまで「見込額」
また、Aさんが「ねんきん定期便」で確認した年金額は65歳時点で月16万円(年間192万円程度)だそうですが、これはあくまでも60歳まで勤務した場合の「見込額」です。
したがって、60歳から65歳まで再雇用で月給25万円(標準報酬月額26万円)で5年間勤務すると、老齢厚生年金のうちの報酬比例部分が年間8万円増え、他に経過的加算額(老齢基礎年金相当)が年間5万円ほど増える計算になります。
よって、65歳までの再雇用を受けることにより65歳からの年金受給額は年間13万円ほど増え、年205万円(月約17万円)となります。