〈対策3〉「家族信託」を利用する

→士業と呼ばれる専門家に依頼しよう

「家族信託」とは、認知症などによって自分で財産を管理できなくなった場合に備えて、「信頼のおける家族に財産を託し、管理や運用、処分をゆだねる仕組み」のことです。たとえば、あなたが預貯金や不動産などの財産の一部をお子さんに託したい場合、どの資産を、どのように管理・運用・処分し、そこで得た利益を誰のために使うのかといった内容を定めた信託契約書を作成し、お子さんと信託契約を結ぶことによって成立します。

少し専門的になりますが、財産を託す人(今回の例ではあなた)を「委託者」、託された財産の管理・運用・処分を行う人(お子さん)を「受託者」、財産からの利益を受け取る人を「受益者」と呼びます。受益者はあなた自身でも、あなた以外の個人や法人でも、複数人でも指定できます。

家族信託は、法律や税務に関する幅広い専門的な知識が必要となりますので、司法書士や弁護士、行政書士、税理士などの専門家に依頼するのが一般的です。

「家族信託」の3つのメリット

(1)財産を思いどおりに託すことができる
あなた(委託者)が、お子さん(受託者)に財産を託す場合、それをどのように管理・運用・処分するか、その利益を誰が受け取るかなどを信託契約で決めておくことができます。受託者のお子さんには、その希望を達成するためのさまざまな義務があり、信託財産を自分のものにしたり、勝手に処分したりはできません。

(2)認知症対策として利用できる
家族信託の大きなメリットは、認知症による銀行口座凍結などのトラブルを未然に防ぐだけでなく、信頼できるお子さんや親族に財産管理を任せることで、あなたの今後の生活も守れるところです。認知症になり判断能力が低下した場合のための制度として、後ほどお話しする「成年後見制度」がありますが、成年後見制度では、財産は基本的に本人のためにしか利用できず、財産の運用も認められていません。

本人が居住する不動産を売却や賃貸に出したい場合には、家庭裁判所の許可を得なければならないなど、財産の管理・運用・処分が制限されることがあります。その点、家族信託では、信託契約で取り決めた目的の範囲内であれば、財産の運用や不動産の処分も自由に行うことができます。

(3)遺言書の代わりに財産の承継・事業継承を決められる
家族信託では、あなた(委託者)が亡くなったときに、信託財産の行く先(承継人)を契約で指定しておくことができ、遺言に残すのと同等の効果が得られます。さらに、承継人が亡くなったあと、残った財産を次に承継する人を決めることも可能です。これは通常、遺言ではできないことです。

「家族信託」の3つのデメリット

(1)身上監護のための契約はできない
家族信託は、あくまでも財産管理の制度のため、受託者に身上監護権(生活・医療・介護などの契約手続きを進める法律行為を行う権利)はありません。この点、成年後見制度では、身上監護のための契約を結ぶことができます。そのため、家族信託と、後ほど詳しく紹介する「任意後見人」をセットで準備しておくと、それぞれの弱点が補完できるのでより安心です。

(2)家族間のトラブルが起こることも
先ほどのキャッシュカードを預けるのと同じように、お子さんが複数人いて、そのうちの一人に財産を託した場合、「自分のために使い込んでいないか」といった疑いが生まれ、トラブルにつながることもあります。
家族信託を行う際には、推定相続人も含めた関係者全員が信託契約の内容を把握して、納得の上で進めていくことが大切です。

(3)信託した財産以外には効力が及ばない
家族信託で契約した財産の管理方法が及ぶのは、契約の際に託した財産のみです。それ以外に、不動産などの財産があり、あなたが亡くなった場合、それらの財産は通常の相続によって分割されます。もし、ほかの財産についても処分の仕方や承継に意向がある場合は、信託財産に含めておきましょう。