誰一人、会話の外に置いてきぼりにならない

殿下がご自分の右方向の3人に向かってお話を始められると、いつのまにか妃殿下もご自身の右方向の3人に語りかけていらっしゃる。そして何かの拍子に話題が移り、殿下がご自身の左側の3人に顔をお向けになるや、さりげなく妃殿下がご自身の左側の3人のほうへ向けて語りかけられるのです。言っている意味、わかります?

つまり、殿下妃殿下が交互に逆の対角線方向へお言葉を投げかけるおかげで、常に誰一人として、会話の外に置いてきぼりにならないのです。それもごく自然にまんべんなく。そしてご自身が話題を提供されたり一方的にお喋りになったりするだけでなく、相手の言葉に優しく耳を傾けて、楽しそうに反応なさっておられるではありませんか。

おお、これぞ皇室のご教育というものかと、私はその見事な会話術の妙に感動してしまいました。

普通は大人数の宴でこんなふうにまんべんなく会話が回ることはめったにありません。どうしても声の大きい人や、その会でいちばん偉い人、あるいは地位の高い人、あるいは私のような喋り過ぎる人間を中心に会話は進み、気がつくと、ひと言も発することなくその場を後にする人がでてきてしまいます。

もちろん、「私は自分が喋るより人の話を聞いているほうが好きなの」という人も中にはいるでしょう。しかし、それにしても、ごく一部の人間に会話が偏ってしまうのは集いの姿として美しくはない。

そこで庶民としては、一つの方策を思いつきました。すなわち、口数の多くなさそうな人はできるだけ真ん中の席に座らせて、声が大きくてよく喋りそうな人にはテーブルの端に座っていただく。そうすれば、無口な人は積極的に言葉を発せずとも、左右から飛んでくる話を受け止めつつ、ときどき口を挟むタイミングをつかむことができると思われます。

幹事役となったら、まず席順を考慮して、それでも発言回数が偏ってしまったら、いちばん無口な人から、半ば強制的に自己紹介や近況報告をさせるというのはいかがでしょうか。

会話が激しく偏ったとき、参加者全員に1人ずつ、短いスピーチをさせるというのは、実際に経験したことのある私としては有効だと思っております。スピーチ嫌いの日本人も、1分ほどの独白ならば、なんとかできるものですよ。
 

阿川 佐和子
作家