住まいを探す際、「駅近物件」を中心に探す人は少なくないでしょうが、それは大都市に住んでいる人に限られた話なのかもしれません。麗澤大学工学部で教授を務める宗健氏の著書『持ち家が正解!』(日経BP)より、一部抜粋・編集して地方と都市部の生活様式の二極化について解説します。
「シャッター商店街を再生」「コンパクトシティー」は東京の価値観の押し付け!? 実は「イオンのある街は住みやすい」という、東京人が認めたがらない〈真実〉【専門家が解説】
電車で移動し、飲みに行くのは東京の特殊な文化
地方や郊外でこれだけクルマが生活に密着し、歩くのはイオンモールのようなショッピングセンターの中だけ、という生活が当たり前になると、1970年代までの駅前に商店街があって、歩いて暮らせるコンパクトシティーに戻るのは、極めて難しいだろう。
東京の中心部に長く住み、駅まで歩いて電車に乗って出かけ、夜になれば少しお酒を飲んで帰る、という生活を送っている人からみれば、コンパクトシティーの意義や暮らしやすさは自明なものかもしれない。しかし、電車を使わずクルマで移動し、あまり飲みに行かない暮らしが当たり前の地方の人たちにとっては自明のものではない。
それを検証するために街の住みここちランキングの個票データを集計してみると、下記の図のように東京23区と東京23区以外では顕著な違いがあることが分かる。
東京23区に住んでいる人の「日常の交通手段にクルマを使っている率」は20%に届かないが、「よく飲みに行く率」は20%を上回る区が多い。一方で、「日常の交通手段にクルマを使っている率」が高まると、緩やかにではあるが、「よく飲みに行く率」は低下していく。そして、郊外や地方では「よく飲みに行く率」が20%を超えるような場所はほとんどない。そして、首都圏や関西圏以外では、ほとんどの地域が日常の交通手段がクルマだという比率が50%を超えている。
1970年代以降に進んだ地方のクルマ社会化は、「飲みに行く」という行動様式をも大きく変化させた。それが、地域のコミュニティーを弱体化させた側面もあるのかもしれない。そうしたクルマを使うライフスタイルが定着していて、1時間かけて30キロ先のイオンに行くことがこの30年間、当たり前になっている地域に対して、「コンパクトで歩ける街に変えよう」「シャッター商店街を再生しよう」というのは、東京の人の価値観の押しつけなのかもしれない。
宗 健
麗澤大学工学部教授/AI・ビジネス研究センター長