初対面の相手の名前を知りたいときには…

・お名前をちょうだいできますか…×
・お名前をお聞かせ願えますか…〇

相手の名前を教えてもらいたいときに、「お名前をちょうだいできますか」と言う人がいます。

「下のお名前をちょうだいできますか」などと言われると、「いやぁ、困ったなぁ」と思ったりもします。「ちょうだいできますか」という質問が、「名前を教えてください」という意味であることは十分わかるのですが、「ちょうだい」とはもともと物や賞などを相手から恭(うやうや)しく受けることを意味します。自分の名前を相手に教えることはできますが、恭しく「ください」と言われても、あげるわけにはいかないものです。

さて、平安時代の紫式部や清少納言など、昔の女性の本名は現在でも分かっていません。それは、決して人に本当の名前を教えなかったからです。当時、名前を教えることは、相手に自分の魂を渡すことだとされていました。名前を教えるということは、それほど恐ろしいことだったのです。

また「下のお名前」というのも不適切です。名前はひとつだけで、上も下もありません。そんな場合には、「お名前を、フルネームで教えていただけますか」あるいは「姓と名をそれぞれお聞かせ願えますか」「フルネームをお伺いしてもよろしいでしょうか」と言うようにしましょう。

山口 謠司
大東文化大学文学部中国文学科教授