友達は100人いないとダメ?

――日本特有の事情かもしれないのですが、「友達100人できるかな?」のような、友人は多ければ多いほどいいという風潮もあります。また、「みんなと一緒じゃないと不安」のような同調圧力が働いて孤独を好む人にとっては生きづらいのかなと感じることもあるのですが……。

ウォールディンガー:もちろん一人でいるのが好きでたくさんの人と一緒にいるとストレスがたまってしまう人もいます。それは健全なことで全然問題ではないんですよね。100人も友達を作る必要はなくて、1人か2人、問題があったときに助けてくれる人がいればいいんです。

科学が私たちに教えてくれる真実

――副題に「幸せになるのに、遅すぎることはない」とありますが、改めてそう確信する根拠を教えてください。

ウォールディンガー:「人が計画すれば、神は笑う」というイディッシュ語のことわざがあります。つまり、自分たちは分かっているようでわかっていないということなんです。「自分は孤独だ」「誰ともつながれないんだ」と思っているかもしれないけれど、85年以上の研究で本当に予想もしていなかったことが起こる。

私自身のことを振り返ってみても、子どもの頃に「あなたは研究者になるんですよ」と言われたら「まさか! なりたくないよ」と言っていました。人間関係にも同様のことが言えます。そういうわけで、何が起こるかなんてわからない。「自分が自分の人生の専門家とは限らない」ということなんですね。この気付きを受け入れ、自分がすべての答えを知っているわけではないことを受け入れるとき、新たな可能性が開けるんです。

――日本では「親ガチャ」という言葉が生まれ、どんな親の元に生まれるかで自分の人生が決まってしまうという考え方が広まっています。もちろん、どんな親の元に生まれても、どんな環境にいても平等に教育を受けることなど社会として取り組んでいかなければならないのですが、閉塞感が漂っている世の中で、読者に向けてのメッセージをお願いしたいです。

ウォールディンガー:多くの人の研究を通してわかったことなのですが、子供時代の経験がその後の人生に及ぼす影響は大きいというのは確かなのですが、しかし、大人になったらすごく幸せになった例もたくさんあります。自分の親はすごく難しい人たちだと「人間ってみんな嫌な人たちなのかな」と思ってしまいがちなのですが、それでも生活のルーティンを変え、人とつながって良い関係を築けた人たちはよい人生を送っているというのが研究でわかっています。

「良好な人間関係は私たちを幸せにし、健康にし、長生きさせてくれる」これは人生のどの段階にいても、どのような社会や文化の中で暮らしていても、どのような状況に置かれていても当てはまります。それが科学が言えることであり、これまで生きてきた人類にとってもほぼ当てはまる真実です。