今やその名前を知らない人はほとんどいない、日本中…いや全米も熱中するアスリート・大谷翔平。テレビやスマホのニュースを見ていても、街を歩いても、あちこちの広告でその顔を見かけます。本記事では内野宗治氏による新刊『大谷翔平の社会学』(扶桑社)から一部抜粋し、“大谷翔平が持つ消費行動への影響力”について論じます。
なぜ人々は、「大谷翔平が広告に出ている」商品を買うのか
では、なぜ人々は「大谷が広告に出ている」というだけで、それまでは買わなかった化粧品を買うのか?
単純に、話題性のある広告によって商品の認知度が上がり、それまで商品を知らなかった人たちにも知ってもらえた、ということもあるだろう。
しかしそれ以上に重要なのは、高度に情報化した現代社会において、もはや商品の「機能」で差別化を図ることは難しく、商品が持つブランドイメージや物語性こそが消費者心理に影響を与えるということだ。
たとえば化粧品なら「その製品にどんな成分が入っているか」という素人にはわかりにくく目に見えない情報よりも、洗練されたデザインのパッケージや百貨店における優雅な店構え、そして芸能人やアスリートを起用した広告などが消費者の購買意欲を刺激する。
消費者は、たとえ大谷が広告に登場したからといって製品の中身が変わらないことはわかっている。それでも買うのは、大谷翔平というアイコンに付随するイメージ、あるいはメッセージ性に魅せられているからだろう。
もっとも、そのイメージやメッセージ性というのは多くの場合、マスメディアによって半ば恣意的につくられたものであって、必ずしも大谷翔平という生身の人間に備わったものではない。
大半の人は大谷と話したこともなければ会ったこともないが、テレビやインターネットを通して「大谷翔平」のイメージを日々膨らませ、それを消費しているにすぎない。マスメディアは人々が期待する「大谷翔平」像を創出し、それに便乗した企業が人々の消費をあおる。
それこそが、スマートフォンの画面から街中のデジタルサイネージに至るまで、生活のありとあらゆるシーンを広告が支配する現代資本主義の姿だ。
いずれにしても大谷は、単なるトップアスリートにとどまらず日本最高のセレブリティ、さらには日本という国の文化的アイコンとして、日本人の生活や消費行動にまで影響を与える存在になっている。
内野 宗治
ライター