今やその名前を知らない人はほとんどいない、日本中…いや全米も熱中するアスリート・大谷翔平。テレビやスマホのニュースを見ていても、街を歩いても、あちこちの広告でその顔を見かけます。本記事では内野宗治氏による新刊『大谷翔平の社会学』(扶桑社)から一部抜粋し、“大谷翔平が持つ消費行動への影響力”について論じます。
大手企業が、「大谷翔平」を広告塔に使うワケ
日本における大谷のプレゼンスは、もはやスポーツ選手の域をはるかに越えており、控えめに言って「日本最高のセレブリティ」になっている。このことは、大谷への破格のスポンサー料を見れば一目瞭然だ。
2023年3月にアメリカの経済誌『フォーブス』が発表した「世界で最も稼いでいるアスリート」ランキングによると、2023年の大谷の推定年収は約6500万ドル(当時のレートで約85億円)で、MLBの選手としてはトップだった。
その内訳は、約3000万ドル(約40億円)が選手としての年俸で、残りの3500万ドル(約45億円)がスポンサー料などフィールド外での収入となっていた。
MLBの選手として大谷に次いでスポンサー収入が多かったニューヨーク・ヤンキースの主砲、アーロン・ジャッジのスポンサー収入が450万ドル(約6億円)だから、大谷のスポンサー収入は文字通りケタ違いだ。
この背景には、大谷が「日本市場での圧倒的なプレゼンス」というアドバンテージを有していることがある。大谷への莫大なスポンサー料を支払っている企業の多くは日本企業であり、そして日本国内には大谷に匹敵するだけの人気や知名度を誇るアスリートはいない。
一方のジャッジの場合、たとえばバスケットボール(NBA)のレブロン・ジェームズら、他競技のスター選手が強力なライバルとして存在している。
ちなみに、このランキングで総合1位に輝いたサッカー選手、リオネル・メッシの推定年収は1億3000万ドルで、うち5500万ドルがスポンサー収入だった。
サッカーが(野球と違って)世界中でプレーされているスポーツであり、メッシが正真正銘のグローバルアイコンであることを考えると、大谷がほぼ日本とアメリカだけで、メッシの半額以上のスポンサー収入を得ている事実は驚きに値する。
ちなみに大谷のスポンサー収入は2024年には、さらに額が増えて5000万ドル(約72億円)に達するとみられている。
2023年1月、大谷とパートナーシップ契約を結んだニューバランスのチーフ・マーケティング・オフィサーのクリス・デービスはこう表現している。「日本での彼(大谷)は、まず第一に“culturalicon”(文化的アイコン)であり、第二に野球選手なのだ」
文化的アイコンである大谷に企業が莫大な投資をする理由は、それだけの経済的リターンを見込めると考えているからだ。
たとえばコーセーのスキンケアブランド「コスメデコルテ」は、WBC開催中の2023年3月に大谷を起用した広告を展開し、その翌日には百貨店での新規購入数が通常の3.6倍、公式オンラインブティックでの販売個数が通常の約20倍という数字を叩き出した。
コーセーが大谷にいくら支払っているのかは不明だが、すさまじい「大谷効果」と言えよう。