大阪の北浜・中之島エリアでは、そのモダンな都市風景から、大阪の景気がよかった時代を体感することができます。大阪を代表する近代建築家による珠玉の名作を、建築家である円満字洋介氏の著書『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ 増補改訂版』(エクスナレッジ)より、解説します。
ライオン橋に中央公会堂…色あせない魅力を放つ、近代建築の名作
06.大阪人が愛するライオン橋
北浜から中之島へ渡る難波橋は、ライオン橋として大阪人に愛される橋だ。近所に本社を構える大林組が手がけた。1975年に改修され上部意匠はそのまま使われているが、鋳鉄製の手すりや中央橋塔の照明器具などは戦時中に失われている。ライオンが狛犬のように「あ・うん」になっているのが大阪らしくておもしろい。
07.大阪近代建築の象徴「大阪市中央公会堂」
大阪市中央公会堂はコンペで選ばれた岡田信一郎の案を元に辰野金吾が仕上げた。岡田案は現況とよく似ているが、もっと派手である。わたしは辰野びいきだから、原案よりもおとなしい今の公会堂のほうが好きだ。細部についてはほぼ片岡安のデザインに見える。大阪市の市章「みおつくし」を模した手すりなど、片岡流の装飾分解で満ちている。近年免震化されたが、玄関ポーチの新しいガラス製庇も全体の印象を活かした上手いデザインだ。
08.威風堂々の新古典主義「大阪府立中之島図書館」
大阪府立中之島図書館のモデルとなった図書館がアメリカにあるそうだ。いかにもアメリカ風の威風堂々とした新古典主義建築である。ジャイアントオーダーに支えられた三角形のペディメントというギリシャローマ古典様式をそのまま引き写したような建築は日本には案外少ない。
09.居ずまいの正しい辰野の代表作「日本銀行大阪支店」
大阪市役所向かいの日本銀行大阪支店は、辰野金吾先生の代表作のひとつだ。図書館と同じ新古典主義建築といっても、辰野は権威的な建築を作らない。中世主義的な繊細で優しい建物で正面のドームも小ぶりだ。ドームの裾がきゅっと内側へ入り込んでいるので王冠のように見えるのがおもしろい。大仰なところがなくピンと背筋を伸ばした居ずまいの正しい建築である。
10.にぎやかな葛野の奇想「中央電気倶楽部」
渡辺橋で堂島に渡り、2本目を西に向かった中央電気倶楽部は、路地のような狭い道に面している上に、バルコニーやアーチや飾りツボをファサードに取り付けているので、まるで古いヨーロッパの都市の一部を切り取ったような建築である。おもしろいのは玄関右の円窓と3階壁面に取り付けられたアーチ型レリーフで、左官職人の作ったコテ絵もしくは型押しのモルタル製だろうか。どちらも植物文様らしいが、葛野壮一郎の奇想から生まれたものたちかも知れない。
11.石貼り舗装が残る「出入橋」
国道2号線手前、阪神高速下の出入橋(でいりばし)は、川がなくなっても橋は残った。普通ならばせいぜい欄干親柱が取り置きされる程度なのに、ここではなんと石貼りの舗装まで残っている。よく見ると手すり上に照明が立っていた跡が残っているから、それも元通り復元して良いと思う。
円満字 洋介
建築家