自動車の歴史を語るにあたり、特筆すべき潮流の一つが、2000年代の「レトロ回帰」。一見、ハイブリッド車などの新しい提案と逆行する、50年代の名車のリバイバルブームですが、実は「EVの最先端と表裏一体である」と、自動車評論家の鈴木均氏は語ります。鈴木均氏の著書『自動車の世界史』(中央公論新社)より、その言葉に秘められた意味を見ていきましょう。
80年代以降、人気が衰えた〈初代ミニ〉に代わり、2001年に登場したBMW社開発の〈新生ミニ〉が飛ぶように売れたワケ【歴史】
EVという「カルチャー」
イタリアのフィアット500の先代は1957年に登場し、50周年を記念して2007年に再登場した。外観はニュービートルやミニと同様、先代のイメージをうまく踏襲しながら、エンジンや電装は現代的な装備で固められた。
新しいフィアット500は本拠地トリノで組み立てられた「ありがたい」レトロではなく、ポーランドとメキシコの工場から出荷されるが、トリノの工場跡はレストアされ、街全体が歴史遺産を中心に据えながら再生されている。
21年には「カーザ・チンクエチェント(フィアット500の家)」が工場跡の再開発地区の一角にオープンし、歴代フィアット500のみならず、エスプレッソマシンやボトルオープナーなど日常生活のなかの様々なイタリアの工業デザインに触れることができる。
フィアットは2020年にEV版の500eを発売したが、車種ごとに特徴が出やすいエンジンと異なり、個性が出しにくい電池とモーターを組み合わせたEVを発売するにあたり、同社は歴史的な積み重ね、「味」やカルチャーを前面に出した。トリノの「カーザ」には当然、フィアット500eが先代500と共に展示されている。
鈴木 均
合同会社未来モビリT研究 代表