「死後離婚」は、2012年から2022年にかけて約3割も増加しています。人生をともに歩んだ夫あるいは妻の死後、夫婦関係を解消したいと考えるようになる背景には、一体どのような事情があるのでしょうか。本記事では矢田部さん(仮名)の事例とともに「死後離婚」に踏み切ってもよいと判断できるケースについて、行政書士の露木幸彦氏が解説します。
蹴飛ばされて全治1ヵ月の“腰椎圧迫骨折”。貯金4,000円・借金800万円の61歳DV夫の死で、妻が決断…じつは日本で増えている「死後離婚」の壮絶な実態【行政書士が解説】
家族を振り回した挙句60代にして借金まみれになった夫
<家族構成と登場人物の属性(すべて仮名。年齢は現在)>
夫:矢田部慎吾(仮名/61歳)、自営業(年収600万円)
預貯金 4,000円
退職金 0円
フリーローン 170万円
キャッシング 180万円
カードローン 260万円
消費者金融 190万円
妻:矢田部涼子(仮名/58歳)、会社員(年収350万円) ※今回の相談者
預貯金 68万円
娘:矢田部里奈(仮名/31歳)、会社員(年収450万円)
預貯金 210万円
塗装工の夫と結婚して35年。涼子さんは一人娘を育て上げたのですが、「家のことはなにもしてくれませんでした」と振り返ります。ずっと夫に振り回され続けた人生だったようです。
夫に蹴られて腰椎圧迫骨折…それでも涼子さんが離婚に踏み切れないワケ
たとえば、「独身だ」と偽り、マッチングアプリで知り合った女性と手当たり次第に遊ぶのですが、食事やデート、プレゼント代が足りなくなるとギャンブルに手を染めるという繰り返し。
具体的には遊ぶ金欲しさにパチンコにはまり、負け続け、カードローンを量産。200万円の借金は涼子さんが実家に頼んで立て替えたものの、夫が懲りることはありませんでした。FX、仮想通貨、ジャンク債と手当たり次第に始めるけれど、信用取引による借金が拡大。家に生活費をほとんど入れなくなったのです。
しかも、泥酔して帰宅した夫に涼子さんが「ないものはないんです!」と肩代わりを拒むと、夫は「偉そうにほざくなよ!」と大声をあげ、涼子さんを蹴飛ばしたのです。診断は腰椎圧迫骨折、全治1ヵ月でした。涼子さんが筆者に声をかけたのは怪我が癒えたタイミングでした。
このように夫はいままで傍若無人にふるまい、ついには家族に怪我を負わせるまでにいたったのですが、なぜ、涼子さんは離婚しなかったのでしょうか?
「うちの親が反対しているのもありますが……」といいますが、いままで立て替えた夫の借金は金額の合計は800万円。離婚したら無駄金と化しますが、もっと大きかったのは夫に対する恐怖心からです。夫と別れるのは離婚届に一筆をもらう必要がありますが、酒癖の悪い夫に頼んだ場合、どうなるでしょうか? 筆者は「逆上するのは目に見えており、命の保証はありませんよ」と注意しました。