年収545万円・50代大企業サラリーマン〈ねんきん定期便〉記載の見込額に呆然「なにかの間違いでは」

登場人物
・ゆめこさん(以下、ゆ)……大正時代からタイムスリップしてきた26歳女性。なぜか、現代社会にめちゃくちゃ詳しい。

・ワイ(以下、ワ)……ゆめこさんの白い飼い犬。お菓子好き。ミーハー。

・有識者のおじさん(以下、お)……難しい単語や複雑な制度を解説してくれる物知りな優しいおじさん。
・サワダ カズキ(以下、主)……今回の主人公。59歳の大卒大企業勤務で、月収は56万ほど。

主:ええ! 俺の年金ってこんなに少なくなるのか!?  これじゃあ生活やってけないよ……。

俺の名前はサワダ カズキ。誰もが知る有名大学の教育学部を卒業後、新卒で入った大企業に勤めている。自分で言うのもなんだが、世に言う「高所得サラリーマン」だ。月給は33万円、年収545万円。巷のニュースではしばしば老後資金不足への警鐘だとか、老後2,000万円問題だとか、取り沙汰されているが、高所得で保険料をそれなりに納めてきた俺には、関係ない。まさに、どこ吹く風。当然高い年金受給額が期待できる……と思いこんでいた。

ワ:年収545万円って、そんなに高所得なの?

お:政府調査によると、日本の平均年収は443万円です。年収600万円以上の割合は全体の21%です。

令和3年(2011年)給与所得者の平均年収→443万円

年収600万円以上の割合は21.0%

男性の割合は31.2%

女性の割合は7.1%

ゆ:つまりカズキさんは、だいたい上位2割ぐらいの年収があるといえますね。

ワ:カズキさんの年収は600万円より55万円低いけど、おおよそ高所得といえそうだね!

主:ところが……、59歳になって初めてねんきん定期便を開き、年金見込み額を確認して驚いた。おいおい、俺の年金って月16万円しかないのか……! こんなんじゃ今の生活どころか、女房と2人で普通に食っていくだけでいっぱいいっぱいになるじゃないか!

ワ:カズキさん、年金だけじゃ生活していけないの?

ゆ:一般的な高齢夫婦の場合、1ヵ月における生活費の支出は22万円程度と言われています。つまり、年金が19万円だとすると、不足分は3万円。その3万円は資産から切り崩していくことになりますね。

お:受給できる年金について簡単に確認しましょう。個人事業主(自営業者)の場合は老齢基礎年金、つまり国民年金のみです。会社員もしくは公務員の場合はこの国民年金に、厚生年金をプラスした額を受け取ります。

ワ:ふむふむ、厚生年金ってどうやって計算するの?

お:厚生年金の保険料は月ごとのお給料に対して定率で、納めた人により納付額が異なります。実際に受け取れる厚生年金は、下記の計算式で求められます。

1. 加入期間が2003年3月まで

平均標準報酬月額(≒平均月収)×7.125/1000×2003年3月までの加入月数

2. 加入期間が2003年4月以降

平均標準報酬額(≒平均月収+賞与)×5.481/1000×2003年4月以降の加入月数

ゆ:カズキさんの場合を計算すると、厚生年金は9万4,000円となります。ということは、逆算すると国民年金が6万6,000円、トータルで16万円受給する、ということですね。

お:とはいえねんきん定期便に記載される年金見込み額は、給与水準が今後横ばいで推移することと、60歳までに年金に加入することを仮定した計算ですので、実際の受給額とは異なることに注意しましょう。

ワ:ねんきん定期便で分かるのはあくまで「見込み額」ってことだね

ゆ:その通りです。

主:正直この金額はかなりショックだ……。俺はそれなりにいい給料をもらってるし、しばしば外食をして美味しいものを食べたり、知見を広げるため旅行に行ったりするのが好きで貯金はあんまりしていない。老後の生活なんて、特別贅沢をしなければ、毎月の生活費は年金で事足りると思い込んでいたよ。はは、ははは。

思い返してみると親父はまさに俺と同じ人生を歩んでいた。新卒で入社した大企業を定年まで勤めあげたんだ。そんな親父は老後、悠々自適な年金生活を送っていたから、知らず知らずのうちにそのイメージに引っ張られていたのかもしれない……。いまはもう、親父の世代のように、年金だけで生活できる時代ではないってことだな……。

「まさか年金がこんなに少ないなんて。」

ワ:生活するだけでも赤字になるんなら旅行や外食なんて全くいけなくなっちゃう……。でも、楽しみがないなか生きていくのって、とってもつらいよね。

ゆ:それにカズキさんはあまり貯蓄がないと言っていましたから、これでは普段の生活費を賄うこと自体も厳しいかもしれません。

主:俺の貯蓄は500万円程度だ。都内に通勤できる埼玉のベッドタウンに、一軒家を購入したり、2人の子どもには幼いころから習い事や塾に通わせ、私立の大学に行かせた。子どもが「やりたい」と興味をもったことはできる限りやらせているのがうちの教育方針だ。教育費に関しては、まさに金に糸目をつけない。ならばその分どこかの出費を抑えるべきだったんだが、高所得者というおごりがあった俺は特に節約もせず、趣味のゴルフや旅行を満喫していたからな。

ワ:年金を増やす方法って何かないのかな?

ゆ:年金の繰り下げ受給制度を使えば、年金を増額させることができます。増額率の計算方法はこちらです。

増額率=65歳に達した月から繰り下げ申し出付きの前月までの月数×0.7%

仮に75歳まで年金を繰り下げた場合→最大で84%の増額

ゆ:年金の増額率は、受け取りを始める年齢を遅らせるほど、アップします。75歳まで年金を繰り下げた場合、最大で84%アップするんです。

ワ:年金がそんなに増える方法があるんだね! でも75歳まで働き続けるなんて、大変だよね。あれ? カズキさん何かしてるの?

主:健康診断だよ。俺のチャームポイントは健康なところだ! 今までも大きな病気をしたこともなく、ガキの頃から皆勤賞の常連だった! 健康が一番の財産っていくだろ? 健康維持や病気の早期発見にこそ投資すべきだと思って今、人間ドックを受けているんだ。

ゆ:素晴らしいです! 人生100年時代といわれる昨今、将来かかる医療費や介護費を考えると健康であることは重宝すべき財産です。

お:健康であれば定年退職後も働くなど、老後資金を形成するための選択肢も広がります。

ワ:元気にシニアライフが送れるって、とても貴重なことだから、積極的に取り組みたいね。

主:それでな、実は俺、年金を70歳まで繰り下げ受給することにしたんだ。俺の年金額は月16万円……けど、70歳まで繰り下げて42%の増額をしてもらえば月当たりの年金額は22万7,200円になるだろ?

ワ:おお! それなら生活費はなんとかなりそうだね!

主:そうなんだ。定年後も働くために、同じ会社で再雇用してもらうことも考えた。

ワ:うんうん

主:だが……、思い切って、公立小学校の放課後学習サポートの講師にチャレンジすることにした。学校の授業についていけない子や、塾に通っていない子どものために、少人数の補修クラスを、教員とチームを組んで行うというものだ。

実は俺は教育学部出身で、大学時代は小学校教諭を目指していた。人に教えるのが好きで、教員免許ももっている。だが、長男だった俺は親父から「小学校教員になるなら、実家に戻って、母さんを支えろ」と命じられた。実家を離れて、東京で1から1人で頑張ってみたかった俺は、実家に帰りたくない一心で一般企業に就職したんだった。

まあ、そんなこと定年を目前に控えるまで、すっかり忘れていたことだがな。

生:「ねぇねぇ、先生~。因数分解ってどうやるの?」

主:「おう、悠馬、そんな難しいことやっているのか? 中学で習う内容だろ?」

生:「うちは貧乏だから塾に行けないんだけど、将来東大に行きたいんだ! 東大は国立だから、学費も安いんだよ!」

主:「だからお前、いつも学年で一番の成績なのか。お前は目標に向かって頑張っててすごいな」

生:「ぼく、東大行って数学者になりたいの!」

主:そこで俺は、補修だけでなく、学習意欲がある子には先の内容を教える無料クラスを設置することを、学校側に提案した。最近耳にするようになった無料塾ってやつだ。親の所得による教育格差をなくすのが今の俺の夢……なんていったら大げさかな。

ワ:カズキさん、定年前よりもイキイキしているね!

ゆ:新しい夢が見つかって、充実した第2の人生を送っていますね! 年齢を重ねると若いころに当たり前にできていたことができなくなり、諦めなければならないことも増えます。ですが、これまで会社や家族に縛られ、諦めていたことに、年齢を重ねたからこそチャレンジすることもできるんですね。

ワ:若いころに落とした忘れ物を、定年後に拾いにいくなんて、カズキさんたら粋だね!