家は残すためではなく、住むためにある

持ち家か賃貸かの議論でも、持ち家は資産として有利か不利かという経済合理性の視点で語られることが多い。持ち家を残すべきか、残さざるべきかという議論も、資産性や相続時の手間が議論の中心になっている。

そのため、自分が死んだあとの自宅が売るに売れず、貸そうにも借りてくれる人が見つからず、固定資産税や管理の負担を子どもにかけるくらいなら処分してしまったほうがいいと考える人がいても不思議ではない。

しかし持ち家とは、子どもが相続する資産であるという以前に、最も重要な機能は今そこにあなたが住んでいるという点にある。そして、住むという観点では、高齢時に家賃を気にせず、住み慣れた家に住み続けられるという価値は非常に大きい。

家の価値には、金銭的な「資産価値」だけではなく、住むという「機能価値」、そこで暮らしてきたという「情緒価値」の三つの価値がある。多くの高齢者にとっては、金銭的に困窮し家を売らなければならない場合を除けば、資産価値にあまり大きな意味はない。心情的にはずっと暮らしてきた家という「情緒価値」が最も大きいだろう。

古い住みにくい家に高齢者が住み続けている大きな理由は、そこで人生を過ごしたという「情緒価値」なのだ。

では、子ども世代から見た親の持ち家はどのような意味を持つだろうか。婚姻率が低下しつづけ、生涯未婚率が上昇しつづけていることから、中年世代の持ち家率は低下している。2018年と2008年の住宅・土地統計調査から年齢別持ち家率を計算してみると、2008年と比べて40歳以降の持ち家率が低下しはじめ、50〜54歳では2008年よりも約8%も低い64.5%となっている。

出所:住宅・土地統計調査から筆者作成
【図表】 出所:住宅・土地統計調査から筆者作成

賃貸暮らしの40歳以上の世帯からすれば、親世代が残してくれた持ち家に移り住むメリットは大きいだろう。特に60歳を超えて年金生活となった場合に、親が残してくれた持ち家に移り住むことで住居費負担がほぼゼロになることは経済的にも大きい。

こうした場合には、家の資産価値や情緒価値を別としても、非常に低いコストで住むことができる家、すなわち機能価値を残すことは、子どもが安心して暮らせる環境を残す、という意味がある。

宗 健

麗澤大学工学部教授/AI・ビジネス研究センター長